護衛という名の監視役
「あいつ、一体何したんだ?」
「目を合わせるんじゃない! 殺されるぞ!」
ひそひそと囁く声が飛び交う王城の廊下をリゼナは俯きながら歩いていた。
かつてないほどの視線がリゼナを全方位から刺し、精神にダメージを与えてくる。
「ねぇ、見て。あの人、素敵じゃない?」
「本当だわ……。あんな素敵な人が騎士団にいるなんて」
畏怖するような視線に交じり、女性の黄色い声や熱い視線も飛んでくる。
リゼナはちらりと自分の横を歩く男に視線を向けた。
美しく整った中性的な顔立ち、長身で長い手足で着こなす騎士服、艶やかな黒い前髪から覗く切れ長の目は色っぽく、その奥に宿るのは魔力最高位の証である金色。
「鬱陶しいね。君、僕の側で仕事してよ」
纏わりつく視線を不機嫌そうに受け止めるリム・ヴァイオレットが全ての原因である。
何故こんな状況になっているのかと言えば、事件が解決するまでリゼナはリムと行動を共にすることになったからだ。
昨晩はケイトに連れられてリムの邸に泊まり、今朝はリムと共に出勤したらこの騒ぎである。
家に帰りたいと訴えたが『死にたいのかな?』と笑顔のリムが剣を弄んでいるのを見て、帰宅は諦めた。
「本当に鬱陶しい」
不機嫌そうに顰められた顔すらも色香を帯びるリムにまたもや遠くから黄色い声が上がる。
そして注目の的を隣においたリゼナといえば…………。
「何で、あの子が隣にいるの?」
「一体、どういう関係なのかしら?」
「不釣り合いも度が過ぎると滑稽だけどね」
リムに視線を奪われた女性達からの刺々しい言葉を視線で針の筵である。
「私達だってお近づきになれないのに……!」
「どうやって言い寄ったのかしら?」
リムの追っかけらしき女性達がリゼナに鋭い視線を向けてくる。
しかし、安心して欲しいと心を大にして言いたい。
あなた達が心配するようなことは何一つないわよ。
「仕事の効率が落ちます。これでも私のところに回ってくる仕事は多いんです。非効率的なやり方だといつもの時間に上がれません」
リゼナの元には各部署からの重要な誓約書の製作依頼が届く。
その数は多く、急ぎの書類も飛び込みで依頼されるので少しでも非効率なやり方で行うと午後二時に上がれない。
リゼナは小休憩や昼休憩を取らずに出勤してから退勤までぶっ通しで仕事をする。
そうすることで小休憩と昼休憩の時間分を繰り上げて退勤し、本を読む時間に当てている。
五日に一度は孤児院の読み聞かせも行っているので退勤時間は遅らせたくない。
それにこの人の側で仕事だなんて怖くてできない。
隣を歩いている今も存在が怖くてしかたがないというのに。
纏う雰囲気が怜悧で危険な感じがするのだ。
接しにくいというか、迂闊に近づいちゃいけない気がする。
「本の虫の分際で図々しいわ」
「あんな顔が歪んで見えるほど厚い眼鏡もないわよね」
「だっさい三つ編みもイマドキないわ」
リゼナの思考とは反対にお近づきになりたい女子達もいるようだ。
代われるのであれば是非代わってもらいたいわよ。
そんな風に思っていると職場に辿り着く。
各々仕事があるので、勤務時間は離れることができる。
もう、このまま逃げてしまいたい。
「じゃあ、後で迎えに来るから。勝手にいなくならないでね」
リムが威圧感のある笑顔で言うと、リゼナはぶるっと背筋が震えた。
リムは護衛と言ったが、これはおそらくリゼナが逃げ出さないようにするための監視だ。
護衛兼監視であるに違いない。
怖いわよー!!
狼の耳と尻尾が見えた気がして、リゼナは泣きたくなる。
いなくなったらどうなるのか、なんて口に出せる雰囲気じゃない。




