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アルノーアの誤算

「え……どうしよう、セナスに詩編の魔女の保護頼んじゃったんだけど……」


 机の上で手を組み、誰もいない室内でアルノーアは焦りを覚える。


「いや、だってさ……あのリム・ヴァイオレットが他人の……それも女の世話を焼くだなんて思うか?」


 いや、思わない。


 アルノーアは自問自答する。


 全てを飲み込み、灰と化す炎の魔術師でその魔力の高さは国随一。

 それに加えて抜群の戦闘センスと騎士団きっての戦闘能力の高さを誇る紫の狼。


 束縛を嫌い、他人の言いなりにならず、邪魔になる者は武力でねじ伏せることを厭わない騎士団一の超問題児で、顔だけは無駄に整っているのに近づく女を全く寄せ付けない唯我独尊男のリム・ヴァイオレットが、だ。


 騎士団長である俺の命令ですら聞かないこともあるというのに、面倒ごとはケイトか二番隊のセナス・ライトウェルに押し付けるあのリム・ヴァイオレットが女性を保護し、自ら護衛するなんて…………。


「これは夢か?」


 そう思って自分の手の甲を抓ってみるが、ちゃんと痛い。


 リムが詩編の魔女の護衛をセナスに押し付けると踏んせいたアルノーアは前もってセナスに詩編の魔女が見つかった際には保護監督を頼むと伝えていた。


『リムでは護衛対象に危害を加えかねない。リムよりもセナスの方が適任だ。お前に任せる』


 セナスの自己肯定感が上がるような台詞を言って聞かせたばかりである。


 セナスはリムと同様に貴重な男の魔術師だ。

 植物を操る能力で用途が多岐にわたり、非常に使い勝手のいい力を持つセナスは騎士団にとっては欠かせない存在だ。


 しかしリムに強いライバル意識があるようで事あるごとに勝負を挑んでは惨敗している。

 

 無駄にプライドが高いので、間違ってプライドを傷つけるようなことを言ったりすると大変なのだ。


 元々、魔女狩り事件の捜査は魔力を有するセスナ率いる二番部隊とリムの五番部隊の合同捜査だ。

 

 二人の間で上手いことやり取りしてくれればいいのだが、この二人は犬猿の仲というか、一方的にセスナがリムに対して対抗意識を持っていることと、人の言うことをまるで聞かない問題児のリムでは上手くはずがない。


 仕方なく俺が気にかけてやってるわけで……。


 アルノーアは溜息をつきながら天井を仰ぐ。


『やっぱりリムに任せることにした』


 などと言ったらセナスは自分がリムよりも劣っていると騎士団長たる俺に評価されていると誤解しかねない。


 それに騎士団長たる俺がリムに強く言えない、みたいな風に思われても嫌だ。


 実際はその通りだが。


「違うんだ、セナス。お前の方がはるかに頼りがいがあるし、いい子だし、優しいし、俺を助けてくれるし」


 ただ、リムは圧倒的な強者なのだ。

 誰にも負けない絶対的な強者。


 

 圧倒的強者の前では騎士団長の肩書きも平々凡々。


「さて……セナスの自尊心を傷つけないようにするには何と言えばいいのか」


 頭を悩ませるアルノーアはそれ以上に気になることがある。


「本当に、どういう風の吹き回しだ? 確かにあいつは事件を早急に解決したい理由があるがそれにしても……」


 いつもとは明らかに様子が違う。

 詩編の魔女を見つけたら保護して俺の前に連れてくるようにセスナとリムには伝えてある。互いに報告し合えとも。


 しかし、アルノーアの所に連れて来る前に自分の手元に囲ってしまった。

 指示を無視するのはいつものことだが、今回は無視の系統が違うと気がする。


「こういう指示や命令に関してはケイトに押し付けるものの素直に従うはずなんだが…………」


 リムのらしくない行動……詩編の魔女には何かある。

 明日にでも詩編の魔女を連れてくるように伝えなければ。


 微かな好奇心を胸に、アルノーアは部下を呼びつけた。 


 


 


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