保護
「ふーん。君、面白いね」
感心したような表情でリムは言う。
何だか、その顔……怖いんですけど……。
リゼナはリムから壊れた人形のようにぎこちなくリムから視線を逸らす。
「ケイト、彼女の身柄は僕が引き受ける」
「はい?」
予想外の言葉にリゼナは目を大きく見開いて驚いた。
「えぇ⁉ 隊長自らですか?」
驚いたのはリゼナだけでなくケイトと部下達も信じられないと言いたげに絶句している。
「僕は報告があるから一度城へ戻る。ケイト、君は厚底眼鏡の君を僕の邸に連れて行って」
「え⁉ ちょっと待ってください! 身柄を預かるって具体的にはどういう……あの……!」
騎士服を翻し、歩き始めたリムをリゼナは引き留めようと声を上げる。
しかし、リゼナの声など完全無視してスタスタと歩く彼の姿はあっと言う間に見えなくなってしまった。
「シモンズさん…………私、これからどうなるんでしょうか……?」
涙目になりながらリゼナはケイトに問い掛ける。
助けてくれと目で訴えてみるが、ケイトは同情的な視線を向けるも、顔を横に振るだけだった。
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「あぁ⁉ 詩編の魔女が見つかっただぁ⁉」
王城にある騎士団長室に大きな声が響き渡り、リムは眉を顰めた。
「うるさいんだけど」
「あぁ、すまん……驚いて……」
ごほんっと咳払いをして居住まいを正し、騎士団長アルノーア・ディプレはリムに向き合う。
「『白雪の赤い心臓』に登場する殺人小人の二体を本に封じ込めたって言ったな? ミオーナ様も見つけられなかった詩編の魔女は一体どこの誰だ?」
「この城の事務官、誓約の魔女のリゼナ・アッシュフォードだよ」
リムの言葉にアルノーアは安堵した表情を浮かべ、前髪を掻き揚げた。
「噂に聞いたことのあるな。本の虫とか言われてなかったか?」
「そうだね。まさに本の虫って感じだよ」
何せ一度読んだだけの本の内容はもちろん、何ページの何行目に何が書いてあるか記憶するほど本に齧りつける人物だ。
本の虫とはよく言ったものだとリムは感心する。
「これで捜査が前進するな。それで、彼女は今どこに?」
「今頃僕の邸に着く頃じゃない?」
リムが言うとアルノーアは目を見開いてあんぐりしている。
実に間抜けそうな顔だとリムは思った。
「聞き間違いか?」
アルノーアは大きく目を瞬いた後に聞き返す。
「リゼナ・アッシュフォードがどこにいるって?」
「耳が遠くなったみたいだね。僕の邸に着く頃だって言ったんだよ」
聞き返して来る上司にリムは面倒そうな表情を隠さずに答えた。
「ん? あれだよな、いつもみたいにケイトに押し付けるんだよな?」
「いや、事件解決まで彼女の身柄は僕が預かる」
「はあぁぁぁ⁉ お前が⁉」
リムの発言にアルノーアは勢いよく立ち上がり、叫ぶように言う。
アルノーアの背後でガタンっと椅子が音を立てて倒れた。
「どういう風の吹き回しだ? お前が他人の世話を焼くなんて…………」
「理由なんて一刻も早く事件を解決したい以外にないけど?」
リムはため息混じりに答える。
「彼女はまだ小人達の標的だよ。彼女が死ねば捜査はまた振り出しに戻ることになる」
そんなのは御免だ。
彼女を死なせるわけにはいかない。
「それはそうだが……てっきりケイトか、二部隊に任せるものかと」
「ケイトに魔力はないし、弱すぎる二番隊長に彼女の護衛は役不足だよ」
「マジか……」
アルノーアは未だに信じられないとでも言いたげな表情で唖然としている。
これ以上構ってられないな。
「報告は以上だよ」
信じられない、と独り言を繰り返すアルノーアを無視してリムは団長室を出た。




