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厚底眼鏡は本好きである

『魔女の心臓、赤い心臓。白雪に捧げる、赤い心臓。絶対に捧げる、お前の心臓』


 一仕事終えて息をついているリゼナに小人達の目が光った。

 その鋭い光にリゼナはゾッと背筋を震わせる。


『魔女の心臓、お前の心臓。絶対捧げる、お前の心臓』


 散り散りになって騎士達と戦っていた小人達が一カ所に集まり、不気味に歌う。

 そしてバラバラになっていた影が一つに重なり、静かに闇の中へ消えて行く。


「待て!」

「いいよ、追わなくて」


 後を追おうとするケイトと部下達をリムは止める。


「今日の所は小人達に対抗する術を見つけられたし、犠牲者は出なかった」

「しかし……このままでは、また犠牲者がでるのでは?」

「彼らは完全にリゼナ・アッシュフォードを標的に定めた。本も彼女の手元にある。彼女が生きてる限り、次の被害者はすぐにはでないよ」


 心配するケイトにリムは言った。


「あの……今のおっしゃりようですと、私はまた狙われるんですか……?」


 リゼナは声を震わせながら言う。


「間違いなくそうだろうね」


「そ、そんな…………」


 リゼナは絶望的な表情になる。

 死に物狂いで恐怖と戦い、殺人鬼を退けたというのに、まだこんなことが続くなんて最悪だ。


「厚底眼鏡の君」

「リゼナ・アッシュフォードですっ!」

 

 リゼナは反射的に答えた。


「君は今日から事件が解決するまで第五部隊の保護下に置くからね」


「どういうことですか?」


「君はいつまた襲われてもおかしくない。かといって死んでもらっては困る。だから君はしばらく僕と行動を共にしてもらうよ」


「ちなみに断るとどうなります?」


 リゼナは無駄を承知で聞いてみた。

 するとリムはいつものように口元に笑みを作る。


「まぁ、どうしても嫌だというならしょうがないね」


「え……いいんですか? 断っても」

 

 意外な答えにリゼナは面食らう。

 断ったら命を奪われかねないと思っていたので拍子抜けだ。


 流石にリム・ヴァイオレットもうら若い乙女の言葉には耳を傾けてくれるようだ。

 リゼナが安堵しているとケイトや部下達から同情的な視線が向けられていることに気付く。


 一体何故、そんな憐れむような目で私を見ているのかしら?


 そんな風に思っているとリムは一度仕舞ったはずの剣を抜き、リゼナの目の前に突き付けた。


「ひいっ」


 リゼナは涙目になりながら情けない声を上げた。


「必要なのは腕から上だけだからね。それより下は自由にしてあげてもいいよ」


 普通に考えてそんなことしたら死ぬでしょ……。

 最初からリゼナに拒否権はないらしい。


「どうする?」

「私はまだ自分の身体とさよならしたくありません。五体満足でいたいのです」


 リゼナは恐怖を紛らわすために手元の本を胸に強く抱き締めた。

 捉え方によってはさっきの小人達よりもよっぽどこの人の方が怖いと思える。


「そういえば、小人の数が七から五人になってたね。何をしたの?」


 リムは首を傾げてリゼナに問い掛けた。


「私の誓約魔法は誓約者の名前を書く必要があるんですけど、それは血でも大丈夫なんです。両方あればより拘束力が強まります」


 リゼナは地面を指さす。

 そこには血痕を拭い取ったような跡が残されていた。


「ヴァイオレット隊長が小人と戦った時に、鍬を持つロクロの身体を斬ったんです。その血も一緒に使いました。ナミトとロクロは二人一緒に登場することが多いので一緒に内容を書き換えたんです」


「内容はどのように書き換えたんですか?」


 不思議そうに訊ねるのはケイトだ。


「二人は二回目の登場シーンから二人で一緒に出てきます。二回目の登場シーンは白雪のために魔女の心臓を探しに行くという内容なのですが、この二人には白雪のお世話のために家に残ってもらうという内容に書き換えました」


 その後に何度かある登場シーンは家で献身的に白雪につくしているということにした。


「あの僅かな時間で二人が登場する場面全てに手を加えたということですか?」


「はい。私、一度読んだ本は内容は忘れないんです。直近で読んだ本であればどの場面が何ページの何行目にあるかも覚えてます。流石に何年も経つと忘れてしまいますが、この本は少し前に読んだばかりなので」


「ページまで覚えてるんですか?」


 驚くケイトと部下達にリゼナは続ける。


「ページを覚えておけば好きな場面をすぐに読み返せるじゃないですか」


 あの本のあの場面を今すぐに読みたい!

 

 その衝動から得た本好きのスキルである。


 意気揚々と語るリゼナにケイト達は引き気味だ。



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