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詩編の魔女

 本の内容の書き換えはいつでもできるわけではないとリムは言う。

 内容の対象になる登場人物がいる場でなくてはならないらしく、家に持ち帰り、ゆっくり書き換えるという真似はできないらしい。


 なんて面倒なことに巻き込まれちゃったのよ。 


 リゼナは薄暗い中でリムの炎の灯りにして本のページを捲る。

 

「小人の初登場は中盤に差し掛かる百三十二ページの十五行目……あった!」


 小人達が揃って白雪に求婚する場面だ。

 この時、小人達はその醜い容姿から白雪にすげなくあしらわれてしまう。

 しかし、ここで個々の名称は記されていない。


 最初から小人をいなかったことにしたい。


「とりあえず、登場場面の名前を消して…………」

 

 リゼナは試しに『小人』の文字を二重線で消してみる。

 しかし、周りの状況に変化はない。


「何も起こらない……ってことは、名前だけ消しても意味がない…………そうよね、最初だけ消してもその後に沢山名前が出てくるし、物語の後半はほとんど小人達が白雪のために心臓を集めてる……一度に全員を捕えるのは無理だわ……」


 リゼナはブツブツと独り言を零す。


 やめて……その鋭利な刃物を私の顔の前に向けるのはやめて……。


 リムはその姿を剣の刃をチラつかせながら見ているものだからリゼナは自分が斬られるのではいかとハラハラする。


 捕獲するなら一人ずつの地道な作業になる。

 しかし、地道でもなんでもやるしかない。


「二回目の登場は二百六ページ九行目……ここだ!」


 イチイ、ニノ、ミノン、シノン、ゴル、ロクロ、ナミトの名前を見つけた。


「えっと……それぞれが凶器を持って家を出る場面……ここを……こうして……」


 リゼナは本にペンを滑らせ、気乗りはしないが地面に転がった小さい腕の前に屈み込む。


 するとはっとした様子で片腕になった小人がリゼナに向かってくる。

 ナミトがリゼナの目の前まで迫るが、リムが振るう炎の剣がナミトを阻む。




「あ、ありがとうございます」


 ちゃんと守ってくれるんだ……。 


 リゼナはちょっとだけリムを見直し、自身が守られていることに安堵する。


「いいから、早くしなよ」


 しかしお礼を言うリゼナにリムは冷たく言い放つ。

 

 うっ……冷たい……。


 リゼナは作業を続けた。


 小人は七人いるが、全員が焦点を当てたエピソードがあるわけじゃない。

 とりわけ、ナミトとロクロの登場回数は少ない。


「ここと、ここ……それから二ページ先のここを書き換えれば……!」


 リゼナは急いでペンをは走らせる。

 いつもとは違う環境で、違う目的でペンを持つせいか、手が震える。


 何とか最後まで書き切り、顔を上げた。


「あなたの役割はここで終わりよ!」


 リゼナは片腕の小人、ナミトに向かって叫ぶ。

 小さな円陣が本を持ったリゼナを中心に浮かび上がり、金色に発光する。


「詩編の魔女、リゼナ・リ・ゼル・アッシュフォードの名の下に内容改変を執り行います。ナミト、自分本来の役割のため、本に戻りなさい」


 リゼナは切り離されたナミトの腕を開かれた本の上に落とした。


『ぎゃああぁぁぁぁ!!!!!!』


 まるで断末魔の悲鳴のような声が響き渡り、本から遠ざかろうとするナミトが次第に本へと引き寄せられていく。


 リゼナはガタガタと震える本を必死に押さえつけ、時間が経つのを待った。


『嫌だ! 嫌だ! 嫌だあぁぁぁ!! 白雪いぃぃぃぃぃ!!!』


 野太い声で叫びながら徐々に本に吸い込まれていくナミトからは白雪への強い執着が感じられ、その姿にリゼナは恐怖した。



 足元から頭のてっぺんまで本に吸い込まれていくのを見届けると、バタンっと本を勢いよく閉じた。


 金色の円陣が徐々に消えていき、成功を確信した瞬間、リゼナはヘナヘナと地面に座り込んだ。


「できるじゃない」


 頭の上からリムの声が降ってくる。

 見上げると『見直した』とでも言いたげなリムは口元に笑みを浮かべている。

 

 薄く笑っているだけなのに、酷く妖艶でリゼナは思わず見惚れてしまう。


 本当に、こんな素敵な人が何で…………。


「おかげで余計な仕事をしなくて済む」


 それってさっきの役立たず生きてる価値ないって発言に繋がってます?



 怖くて聞けないがおそらくそうだろう。

 するとまたもやリゼナの思考を見透かしたかのようにフっと笑った。


 何でこんなに危ない思考回路してるのよ。こんなに素敵なのに。

 


 落ちそうになる眼鏡を押さえながらリゼナは息を吐いた。



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