第97夢 生き残ったネズミの夢
医者と下男は、ネズミに放線菌のエサを与える実験を始めました。
第97夢 生き残ったネズミの夢
医者の屋敷の奥、広い蔵を改造した実験室には、幾つもの木箱が並んでいた。中では無数のネズミがちょろちょろと動き回っている。その数、およそ二千匹。すべて、医者と下男が苦労して集め、育てたネズミたちだった。
医者は鼻水をすすりながら、一つの箱を持ち上げた。その中にも数十匹のネズミがいる。彼らには昨日、造り酒屋から持ち帰った菌のうちの一種類を混ぜた餌を与えたばかりだ。
「さあ、お前たちには特別な餌を食べてもらうぞ」
医者は菌の餌を木箱に投げ入れる。ネズミたちは警戒しつつも、やがて競うように餌に群がった。下男が慎重に記録を取る。
二千匹のネズミを二百に分けて、二百種類の菌を与えていく。ネズミの体重は人間の千分の一なので、普通の薬の一回分の量の千分の一を毎日投与し、変化を観察する。
しかし、実験を始めて十日も経たぬうちに医者の表情は曇り始めた。
「どれも、思ったほど効果がない……」
医者は鼻をすすり、記録を見直した。ほとんどの菌を与えたネズミたちは、通常の餌を食べた場合と変わらぬ成長を見せていた。中には、漢方薬や生薬を与えた場合よりも体調を崩すネズミもいた。
「これでは、ただの時間の無駄だ……」
医者はため息をつき、肩を落とした。あれほど期待していた放線菌の力も、結局は夢物語だったのかもしれない。
しかし、そんなある日、下男が驚いた声を上げた。
「旦那様! この箱のネズミたち、他より元気ですよ!」
医者は慌てて駆け寄った。下男が指さす木箱の中では、十匹のネズミたちが、一匹も死なずに元気に動き回っている。他の箱にいるネズミたちは、何匹かは鼻水を垂らして死んでいた。この箱のネズミはどの箱のネズミよりも毛並みがつやつやしており、活発に跳ね回っていた。
「これは……!」
記録を見返すと、確かにこの箱のネズミだけが、異様に健康で長生きしていることが分かった。
「どの菌を与えたんだ?」
下男が慌てて帳面をめくる。
「ええと……これです!」
帳面には、菌の番号が記されていた。
「まさか……この菌だけが、長生きの秘訣なのか?」
医者は胸の高鳴りを抑えられなかった。
「これだ……これなら……!」
医者は震える手で鼻水を拭い、下男の肩を強く叩いた。
「よし、もっと詳しく調べるぞ! この菌の効果を証明できれば……儲かるぞ!」
「はい、先生!」
「よし、造り酒屋のおやじのところに行って、この番号の菌だけ大量に培養してくれ、と頼んでくれ!」
「はい、わかりました!」
医者の目は輝いていた。これは、単なる実験の成功ではない。新たな富の源泉となる発見なのだ。
こうして、医者は鼻を垂らしながらも、新たな夢に向かって突き進むこととなった。
医者は二百分の一の幸運をつかみました。




