第96夢 放線菌と奇跡の大儲けの夢
医者は造り酒屋から放線菌の塊を受け取ります。
造り酒屋のあるじは渋い顔をしながらも、夢のお告げを信じ、奥へと向かった。
医者は玄関先で鼻をすすりながら待つ。下男は荷車を押さえたまま、不安げにあるじの背中を見送る。
しばらくして、あるじは慎重に両手で箱を抱えて戻ってきた。箱の中には、ビードロの器に密封された三十匁(約120グラム)ずつの放線菌の塊が並んでいる。
「これが、お前さんが求めるものだ」
あるじは箱を医者の前に置いた。
医者は震える手で一つを取り上げた。ビードロの器の中には、乾燥した菌の塊がしっかりと詰まっている。
「これが……」
鼻水を垂らしながらも、医者の目には興奮の色が宿っていた。これを試せば、ひょっとすると、自分の病も治るかもしれない。いや、それどころか、もっと強力な薬が作れるかもしれない。
「感謝します……」
医者は頭を下げ、箱を荷車に積むよう下男に指示した。
「いいか、扱いには気をつけろよ。うちの蔵の技術と、寺の管理人夫婦の努力の結晶だ。無駄にするんじゃねぇぞ」
あるじの言葉に、医者は深くうなずいた。
「もちろんです。これは、未来の薬になるのですから」
「お代は寺からもらうことになってるから、気にすんな。それより、さっさと帰って温かくして燗酒でも飲んで休め」
医者は深々と頭を下げると、荷車に包みを積み、城下町の屋敷へと急いだ。
屋敷に戻ると、医者はすぐさま包みを解き、菌の入ったビードロの器を一つ一つ並べていった。
「これが二百種類の放線菌とやらいう薬の元か…」
鼻をすすりながら、一つの瓶を手に取る。麦にびっしりと菌が付着しており、まるでコウジのようだ。コウジからつくる酒が百薬の長というなら、この菌からつくる薬が万病に効いてもおかしくはない。
「これを使えば、漢方薬よりも速く効く薬が作れるかもしれない……!」
医者の胸が高鳴る。従来の漢方薬は、効果が現れるのに時間がかかる。だが、もしこの菌から短期間で効く薬が作れたなら?
「まずはネズミで試そう」
すでに屋敷の一角には、数千匹のネズミが飼われている。薬の効果を試すにはうってつけだ。
「これが成功すれば、私の名声は江戸にも響き渡る……いや、日本全国に!」
医者は自分の未来を思い描いた。
この菌を使って作った特効薬が評判になれば、大名や豪商たちがこぞって求めるだろう。莫大な富が転がり込み、いずれは幕府の御典医に取り立てられるかもしれない。
「そうなれば、もう一生安泰だ……!」
妄想が広がると、鼻水を垂らしたまま思わず笑みがこぼれた。
「フフフ……フハハハハ!」
そんな彼の足元で、逃げたネズミたちはちょこまかと動き回っていた。
ネズミの実験の結果やいかに。




