第93夢 江戸から来た若い鼻たらし医者のネズミの夢
今回からは花巻の城下町のお医者さんのお話しです。
花巻の城下町に、一人の若い医者がいた。
江戸から流れてきたその医者は、噂を聞いてここへやって来た。
花巻では最近金銀がたくさんとれるそうだ。だから金持ちが多い。病気を診れば、たっぷりと稼げるだろう。
そんな下心でやってきたのだった。
実際、最初はうまくいった。
花巻の城下町は、人口が増えて活気づいていた。
しかし人が集まれば、病もまた集まる。
咳や鼻水、下痢、腹痛…そんな病にかかった者たちが、次々と医者のもとを訪れた。
彼らは金銀で代金を払った。江戸ではツケ払いが当たり前だったのに、ここでは現金払い。やはり花巻は景気がいい。
こんなに楽に儲かるとは!
医者は調子に乗った。
城下町の外れにあった、大きな蔵付きの元商店を買い取る。あたりには江戸や近くの藩から流れてきた人々が小さな小屋をたくさん建てて住んでいて、病人はいくらでもいた。
病気が大流行したときは、とてもさばききれないほどだった。
すると、不思議な寺の職人とかいう者どもが現れた。手洗い、飲み水の煮沸、口を覆う布などの使い方を教えてまわった。不思議なことに病はだいぶんおさまった。
病がおさまりすぎたら儲からないと、少し気をもんだ。しかし、病は完全にはなくならなかったので、ちょうどよくまた儲かった。寺のまねをして、セッケンや口を覆う布を仕入れて売ったら、またまた儲かった。
さらに、漢方薬や生薬を大量に仕入れた。日本で金銀がたくさんとれると聞いた中国商人やオランダ商人が貿易の許されている長崎に殺到。中国や朝鮮の漢方薬や生薬を長崎に持ち込んでいた。
それを大阪や江戸の商人が金銀のとれる花巻へ運んで儲けていた。史実よりも発展している太平洋航路と北上川航路を通じて、江戸と遜色のない種類と量の薬を船で仕入れることができた。
これで一生安泰だ。
そう思っていたのだが…
自分が病に倒れてしまった。患者からうつされたのだ。
はじめは高熱。何日かして、熱はようやく下がったが、緑色の痰と鼻水、それに咳が何日も続き、まったくおさまる気配がない。
頭が重い。全く働けないほどではないが、体がだるい。
いくら漢方薬を飲んでも、よくならない。
やがて、鼻水を垂らし、咳をする医者を頼る者はいなくなった。
病人が病人を診られるわけがない。
どうしたものか。
途方に暮れていたある夜、医者は夢を見た。
「ネズミを飼い、薬の実験をするがよい」
夢の中で、徳の高そうな僧がそう告げた。
ネズミ?
医者は考えた。
ネズミは繁殖が早い。
薬の効き目を試すには、確かにうってつけかもしれない。漢方薬や生薬ならたくさん買ってある。いろいろな新しい組み合わせを試してみるのもいいかもしれない。
しかも、もし良い薬を見つけられたなら。
自分の病気を治せるかもしれない。
そして、また繁盛するかもしれない。これは薬師如来さまのお告げかもしれない。
やってみるか。
どうせ、いまはヒマなのだ。
若い医者は鼻水を垂らしながら屋敷中を探しまわったり、ネズミ捕りを仕掛けた。下男に命じてあたりの小屋からもネズミを買い集めさせた。
そして、ネズミを飼い、増やし始めたのだった。
ネズミを増やしたら実験開始です。
あの薬がよく効くはずです。
次回、あの薬、いえ、まだ薬の候補が医者のもとに。




