第81夢 米千石と寺社復興の夢
米も大豊作です!
寺の田んぼに広がる黄金色の稲穂。それは、村の田んぼと比べて明らかに実りが違っていた。
「おい、見ろよ。ここの稲、穂がずっしりしてるぞ!」
「村の田んぼの倍くらいあるんじゃないか?」
弟子たちが驚きの声を上げる。化学肥料である石灰窒素をたっぷり混ぜた堆肥を使い、田車で効率よく除草し、さらにボルドー液で病害を防いだ結果、寺の稲は村の田の二倍もの収量を上げたのだった。
だが、村人たちの反応はどこか薄かった。
「すごいもんだが……結局、半分は年貢で取られるからなぁ」
「米が増えりゃ、それだけ藩に持っていかれるだけだし……」
年貢として収める割合は決まっており、どれだけ努力しても半分は持っていかれる。むしろ麦なら年貢とられなくて済む。そんな事情があるから、せっかくの大豊作も村人たちにとっては「すごいけど、結局変わらない」という気持ちになってしまうのだった。
それでも、寺が払う大工並みの賃金は魅力だった。
「まあ、寺の仕事は割がいいからな!」
「よーし、がんばるぞ!」
そう言いながら、村人たちは楽しげに稲刈りを手伝ってくれた。
むしろ、この結果に最も驚き、反応が大きかったのは藩の役人たちだった。
「こ、これは……なんという収穫量だ!」
「ぜひこの技術を広めてほしい!」
「いや、それよりも、詳しく教えていただきたい!」
代官や奉行といった偉そうな侍たちが、毎日のように寺に押し寄せた。彼らにとっては、藩の財政を支えるための米の増産が何よりの関心事だった。
この時代、紙幣や金貨や銀貨よりも貨幣として流通し経済力の指標となったのは米だった。武士の階級も藩の権威もすべて米の量で現された。
南部藩の史実の石高は、表高10万石、幕府には秘密にしている裏高20万石。
もし、寺の技術が広まれば、藩全体の収穫量が増え、年貢として納められる米も格段に増えることになる。武士の収入があがり、藩の権威も高まる。
「この技術を藩の農民にも教えていただきたい」
「必要なものがあれば、藩が全面的に支援しよう」
彼らの必死な様子に、ミツと三郎は困惑した。石灰窒素は間違えて使うと皮膚がただれるなど体に害がある。ここで単に技術を広めてしまえば事故になりかねない。
ミツと三郎はお坊さまと相談し、役人たちにこう答えた。
「この技術は便利ですが、扱いを誤れば皮膚がただれたり、逆に収穫量が減る危険もあります。したがって、無闇に広めるのではなく、弟子たちを通じて徐々に広めていくのがよいと考えております」
「なるほど……」
「たしかに、あまりに急激な変化は農民たちも戸惑いましょうな」
「それで、寺としては何か望むものは?」
役人たちがすぐに条件を尋ねてくる。そこで三郎は、あらかじめ用意していた案を切り出した。
「戦国時代に荒廃した寺や神社、そしてその田畑を復興する許可をいただきたい」
「寺や神社の復興、ですか?」
「はい。寺や神社が元通りになれば、村人の心の支えにもなります。そして、それらの土地を耕し、寺の農業技術を活かして米や麦を育てれば、藩に納める年貢もさらに増えるでしょう。そして寺や神社を通じて安全に技術を広めます。」
「なるほど……それはたしかに良い話だ!」
さらに三郎は、寺の収穫した千石を超える米と、裏山の鉱山で得た多額の銀を上納し、許可を願い出た。
「これほどの貢献を申し出てくれるとは……!」
「よろしい、藩としても喜んで許可しよう!」
こうして、藩は寺や神社の復興と、その田畑の開墾を正式に許可したのだった。
「よし、これでまた一歩前進ね!みんなに寺や神社をひとつずつ担当してもらいますよ。さらに弟子を集めて技術を教えてもらいますよ。」
ミツが笑顔で弟子たちを振り返る。
このお寺の十人の弟子たちにそれぞれひとつづつ、あわせて十のお寺や神社の復興を担当してもらう。裏山で鉱山を掘り、田畑を開墾する。そしてその弟子たちがそれぞれ十人の孫弟子を教えると、孫弟子は百人となる。再来年は南部藩じゅうの廃寺廃神社が復興することだろう。さらに次の年は千人、みちのく全体の復興がすすみ、さらにその次の年には一万人の弟子たちが日本全国を復興するだろう。
「これからはこのお寺だけじゃなく、もっと広い土地でお米も麦も育てられるってことだ!」
「俺たちに教える役割も増えるのか?仕事が増えるなあ。」
「そうね。でも、ちゃんとした技術を身につければ、それがいくつもの村の力になるわ!」
「数年働いたら五反(5000平方メートル)の田畑をいただけるという話だったけど…」
「一年で十町(10万平方メートル)以上の大農場主か!」
「寺はお坊さまのものだから農場主じゃないわよ。農場管理人、別当さまでしょ。三郎先生やミツ先生みたいに。」
「いやいや、それでも大出世じゃないか!」
「坊さんになったら酒も飲めなくなるから、別当(管理人)のほうがいいさ」
「ははは。ちがいない。」
三郎はそんな弟子たちの会話を聞きながら、静かにうなずいた。藩の許可を得たことで、寺の役割はより大きくなった。農業の発展はもちろん、寺や神社の復興も進めることができる。
ここからが、本当の始まりだ。
三郎は、確かな手応えを感じながら、夜空を見上げた。新たな時代が、すぐそこまで来ていた。
すると、お調子者の弟弟子と、裁縫上手の妹弟子が、おずおずとミツと三郎の前に進み出た。
「あのう、お願いがあるのですが…」
お調子者の弟弟子と、裁縫上手の妹弟子のお願いとは何でしょうか?




