第79夢 麦畑でミツと母が再会する夢
楽しい麦の収穫ですが、ミツには過去の因縁あるあの人との再会が待っていました。
黄金色に輝く麦畑の中で、ミツは汗をぬぐいながら、弟子たちや村人たちとともに麦刈りに励んでいた。笑い声が響き、収穫の喜びが畑いっぱいに広がっている。ミツも楽しげに鎌をふるい、村人たちと冗談を交わしながら作業を進めていた。
しかし、不意に視線の端に映った人物に、ミツの動きが一瞬止まる。
作り笑顔の女が立っていた。ミツの実母だった。
彼女が近づいてくるのを見て、ミツの胸には一瞬だけ冷たい感情が広がる。幼い頃から三女というだけで軽んじられ、辛い思いをした日々。ミツにとっては自ら望んで来た寺だが、母は寺に預けたというより、娘を寺に売ったと思っているにちがいない。思い出せば苦しい記憶が蘇る。
しかし、ミツはすぐに笑みを取り戻した。お寺が、ここが私の居場所だ。
寺での暮らしは苦労もあったが、それ以上に充実していた。お坊さまに導かれながら、優しい三郎や、かわいい妹弟子や、愉快な弟弟子たち、親切な村の人々とともに働き、学び、成長してきた。ちょっと先輩なだけなのに、妹弟子、弟弟子たちは、先生、先生、と慕ってくれる。辛かった過去に縛られる理由なんて、もう何もない。
だから、ミツは堂々と母を見据えた。
「お母さん。ご無沙汰しておりました。」
「まあ、元気そうで何よりね」
母の言葉は、どこか上辺だけだった。ほんとうに心配しているようには聞こえない。
「それでね、うちの麦畑の作業も、お寺でお願いできないかしら?」
母の口調は柔らかいが、その目には打算が見え隠れしている。ミツは一瞬だけ瞳を細めたが、すぐに明るく微笑んだ。
「ええ、もちろん。他の村の方々と同じ条件で、お寺の栽培技術を使って、しっかりいい麦を育ててあげますよ。」
「そう、それは助かるわ。でも……ほら、少し作業の料金を安くしてもらえないかしら? うちだけ特別に、ちょっとだけでも」
ミツは穏やかに首を振った。
「ごめんなさい、お母さん。どのおうちも同じ条件でお願いしているの。だから、うちだけ特別っていうのはできないの。」
「……そう」
母の作り笑顔がわずかに曇る。しかし、それでも食い下がる。
「じゃあ、せめて肥やしをうちの畑には多めに入れてもらえない? その方が、たくさん収穫できるでしょう?」
「いいえ、お母さん。肥やしはね、多ければいいってものじゃないの。適正な量を入れた方が、麦も元気に育つのよ。だから、他の畑と同じように、ちゃんとしたやり方でやらせてもらうわ。それが一番いい結果になるから、安心して。」
ミツの言葉に、母はしばらく沈黙した。作り笑顔が消え、ほんの少し、複雑な表情になる。そして、ため息混じりに肩をすくめた。
「……そう。なら、お願いするわ」
そう言って、母は踵を返した。その背中を見送りながら、ミツは心の中に、晴れやかな気持ちが広がるのを感じていた。
私は、もう過去に縛られない。
母がどう思おうと、どう接してこようと、関係ない。私は私の道を歩く。寺の人たちとともに、よりよい暮らしを築いていく。
ミツは小さく息をつき、再び麦畑へと目を向けた。弟子たちや村人たちが、明るい笑い声を上げながら作業を続けている。売られてきた妹弟子が心配そうな表情でミツを見つめていた。
「さあ、まだまだ収穫するわよ!」
ミツは鎌を握り直し、弾むような声でみんなを励ました。過去ではなく、未来を見据えて。
ミツは未来にむけて、また一歩を踏み出しました。




