第72夢 古い神社をみつけた!の夢
若者たちが山の奥であるものを見つけます。
冬の朝、弟子たちは薪を取るために山へ入った。雪はやみ、太陽が顔をみせるなか、木々の合間をぬって進む。空気は澄み、足元の雪がきゅっきゅっと音を立てる。
「これくらい集めれば、しばらくは薪に困らないな」
お調子者の弟弟子が満足げに腕を組む。
「あと少し奥まで行ってみよう。多いほうがいい。」
「おい、もう帰ろうよ。この奥は行ったことないぞ。熊が出たらどうするんだよう。」
「こんな真冬に熊が出るかよ。穴の中でおねんねさ。」
薪割りが得意な弟弟子がそう言って、さらに奥へ進んだ。そのとき。
「おい、あれを見ろ!」
先を歩いていた弟弟子が突然立ち止まり、指をさした。その視線の先、雪の中にぽつんと立つ、苔むした鳥居があった。
「神社か?」
近づいてみると、鳥居の先には古びた石段が続き、その先にひっそりと社殿が建っていた。
しかし、屋根のひさしは一部崩れ、社殿の壁もずいぶん古びている。長年、誰にも手入れされていないのが一目で分かった。
「すごいものを見つけちまったぞ!」
弟子たちは顔を見合わせた。一瞬の静寂の後、一人が勢いよく駆け出した。
「とにかく、寺に報告だ!」
薪を背負ったまま、山道を駆け下りる。息を切らしながらも、弟子はまっすぐ寺へ向かった。
「大変です!」
弟子が勢いよく寺の門をくぐると、本堂で作業をしていたミツや三郎、そして他の弟子たちが驚いて顔を上げた。
「どうしました? 熊でも出ましたか?」
三郎が薪を持つ弟子を見て尋ねる。
「熊じゃありません! 神社です! 山の奥で、古い神社を見つけました!」
弟子は息を整えながらも、興奮を抑えられずにまくし立てる。
「鳥居があって、社殿もありました! でもすごく古くて、ちょっと壊れていて」
「神社?」
ミツが目を輝かせた。他の弟子たちもざわめき始める。
「本当に神社なのですか?」
三郎が慎重に尋ねる。
「間違いありません! 鳥居もありました!」
三郎は腕を組み、じっと考え込む。ミツはすぐに興奮した様子で叫んだ。
「これは見に行くしかないですね! よし、みんなで行きましょう!」
「おう!」
弟子たちの声が一斉に響いた。
みんなで神社があるのを確かめたあと、三郎は雪道を歩き、村の肝煎(村長)の家へ向かった。
「おお、三郎さま。いつも村へのたくさんの御寄付ありがとうございます。今日は何の御用ですか?」
「実は……」
三郎は山の神社を見つけたことを説明した。肝煎はしばらく顎をさすりながら考え込んでいたが、やがて頷いた。
「ああ、あの神社か……」
「ご存知なのですか?」
「あれは数十年前、秀吉さまの世が終わるころでしたか、修験道の山伏の方々が住んでいた神社ですね」
三郎は驚いた。山伏といえば、厳しい修行を積み、山を拠点に修行や祈祷を行う者たちだ。
「山伏のみなさんは他国へ移ると言って、ある日突然、引き払ったんですよ。氏子もいないので、誰も神社を管理する者がいなくなり、朽ちていたんでしょうな。」
肝煎は懐かしそうに語ると、ふと何かを思い出したように立ち上がった。
「そういえば……」
彼は奥の蔵から大きな包みを持ってきた。布をめくると、中から立派な神楽の道具が現れた。華やかな面や、金具のついた太鼓、そして神楽舞で使う独特の衣装。
「これは……?」
「山伏のみなさんが引き払うときに置いていったんですよ。『世話になったお礼だ』と言って」
肝煎は道具を手に取りながら、しみじみと言うと、思い着いたように、さらに言った。
「そうだ!もしよろしければ、その神社を寺で再興していただけませんか?」
三郎は驚いたように肝煎を見たが、うなずいて言った。
「それはありがたい話です。村のためになることはなんでもやりたいと思います。ただ、お坊さまのお許しをいただかないといけません。数日お待ちください。」
この時代、寺に神社があるのは普通のことだった。神は仏の化身だと言われていた。寺と神社がはっきり分けられるのは明治時代に神仏分離令が出て、廃仏毀釈運動が盛り上がってからのことである。
肝煎はさらに言った。
「せっかくの神楽の道具も、このままではもったいない。神楽を奉納して、村人にも拝見させていただけたらみんな喜びます。隣村では山伏神楽が伝えられていて、とても盛り上がっているのですよ。」
肝煎は感慨深げに目を細めた。
「そうですね。神社がにぎやかになれば、きっと村も活気づくでしょうね。寺の若い者たちもやる気が出るでしょう。お坊さまにお願いしてみます。」
三郎は微笑み、神楽の道具を丁寧に包み直し預かった。
三郎は、雪の降る道を戻りながら思った。長い間、忘れられていた神社が、また村の人々の心に灯をともすことになるのかもしれない、と。
山伏神楽で盛り上がる、のでしょうか。




