第71夢 肥料計算の勉強の夢
今回は珍しく屋内で勉強です。
今日は朝から吹雪だった。雪が積もって畑仕事は一休み。ミツは朝食のあと弟子たちを本堂に集め、「今日は座学をします」と告げた。弟子たちは一斉にため息をつきながらも、座布団を並べて正座する。農具を振るうより、筆とそろばんを握るほうが苦手な者が多いからである。
三郎がゆっくりと前に出て、黒く塗った木の板に白い炭酸石灰で文字を書く。「では、肥料の計算を勉強しましょう」と口を開いた。
「みなさん、覚えていますね。刈草100貫あたり石灰窒素を5貫使って、肥やしができました。では、反あたり10貫の石灰窒素を畑に入れるには、反あたり刈草何百貫分の肥やしをまけばよいでしょうか?」
1貫は約4kg、1反は約1000平方メートルである。
本堂に静かな緊張が走る。そろばんを手にする者、隣と顔を見合わせる者、額に皺を寄せる者。弟子たちは、それぞれ真剣に考え始めた。
「はい!」といきなり手を上げたのはお調子者の弟弟子である。「えーっと、200貫です!」と胸を張って答えた。
三郎がうなずく。「正解です。よくできました」
やった!とお調子者は両手をあげて喜ぶ。周囲の弟子たちも「おぉ、すごい!」と感心しきりである。しかし、すぐに「どうして200貫になるのですか?」と首をかしげる声もあがった。
三郎はにっこり笑い、
「刈草100貫で作った肥やしには石灰窒素が5貫入っているわけです。5貫の2倍が10貫です。反あたり10貫の石灰窒素を入れるには、その2倍の肥やし、つまり100貫かける2の答え刈草200貫と石灰窒素10貫で作った肥やしをまくことになるわけです」
と丁寧に説明した。
「わからない」と頭を抱えていた弟子も「なるほど」とうなずいた。
次にミツが関連問題を出す。
ミツも実家にいたときには計算は苦手だったが毎晩お坊さまが親切丁寧に教えてくれるので、すっかり計算が得意になっていた。
なお、ミツと三郎は気づいていないが、ミヤザワケンジ2.0が夢を通して、いわゆる睡眠学習を施したのである。
「刈草100貫と石灰窒素5貫で作った肥やしは完成したとき何貫になりますか?」
「はい」「はいっ」「はい!」
さっきより多くの手が上がった。
当てられもしないのにお調子者が答えを叫ぶ。
「100足す5で105貫で~す!」
「おしい、当たりとは言えません。」
ミツが言うと、お調子者は口をとがらせる。
「えええ、どうしてですかあ?」
「ちょっとひっかけ問題でした。ごめんなさいね。計算では105貫になりそうですが、実際には、完成した肥やしは雨が当たって水分が増えたり、発酵熱で水分が蒸発したりして重さが変化します。それに石灰窒素はそのままではなくて、水に溶かして刈草にまいたでしょう?」
「あっそうかあ。そうだ、そうでしたね。」
うなずくお調子者。根は素直である。
「いずれ、大きな建物の中で、水分もちゃんとはかって肥やしをつくるようになれば、完成品の重さも管理できるようになるかもしれません。」とミツ。
「なるほど」「そうかあ」と弟子たち。
三郎が補足する。
「将来は肥やしを正確な重さで袋につめて、原材料や成分をちゃんと書いて、だれでも見ればすぐ使い方がわかるような、そんなちゃんとした商品として売れるようになる、とお坊さまは言っていました。」
「おお、それは便利だ」
「そんな肥やしができたらいいな」
弟子たちが口々に話し始める。
ミツが話を戻す。
「今のところは、肥やしの完成品の重さは残念ながら、バラバラです。完成品の重さから、もとの材料を計算するのが難しいです。ですから、刈草何貫、石灰窒素何貫で作った肥やしか、ちゃんと記録して、だれが見てもわかるように、肥やしの山に看板を立てておいてください。」
「はーい」
ミツはさらに、これを田んぼではどうするか、畑では作物によってどう変えるか、春からみんなで実験していきましょう、そのためには大事な計算ですよ、と言った。
冬の間にしっかりと知識を身につければ、春からの仕事はずっと楽になるのだ。
「肥やしはただまけばいいってものじゃありません。ちゃんと計算して、適切な量をまくことで初めて良い作物ができますからね。新しい肥やしの、その適切な量を私たちで探してつきとめていくのです。」
「うわぁ、勉強しないと大変なことになるんだなぁ」とぼそりと呟く弟子もいる。計算が苦手な弟子はまだ苦戦しているが、ミツや三郎が繰り返し教えるたび、少しずつ理解していく。
本堂に響くそろばんの音と、筆が紙を走る音。農作業で鍛えた手が、勉強でも力を発揮する日が来るとは思っていなかった弟子たちも多い。それでも、自分の畑を任される日を夢見て、一生懸命学んでいく。
本堂の窓の外には、まだ雪が降り続いている。雪解けとともに、彼らの知識も大きく実るに違いない。ミツと三郎はそんな弟子たちの姿を見ながら、密かに目を細めていた。
今日はいつもの農作業とは違う一日だったが、この冬の学びこそが未来の豊作を支える礎になる。ミツも三郎も、そして弟子たちも、それを少しずつ実感し始めていた。
ミツと三郎と弟子たちの肥やしが世界を変える日も近い!




