第68夢 融雪剤で雪かきを楽にする夢
村に雪の季節が近づいてきました。
ある工夫で雪かきが楽になるようです。
弟子たちは新しい農具の使い方をすっかり覚えた。回転馬スキも、肥料散布機も、種まき機も、みな手際よく操れるようになった。
麦もきれいに芽を出し、畑一面がやわらかな緑色に染まる。寺の農作業は順調そのものである。
秋も深まり、農道や用水路の補修の仕事が始まる。鉱山で余った石や砂がたくさんあるので穴を埋めたり、崩れた部分を埋めたりする。農道はぬかるみやすい土の道から、雨でも歩きやすい砂利道につくり直した。
ある朝。空を見上げたミツが「雪が来ますね」とつぶやいた。その通り、昼前にはちらちらと白いものが舞い始めた。
「こりゃ参ったなあ。このままだと畑どころか道も見えないようになるぞ」とお調子者の弟子がおどけて言うが、さすがにみんな困り顔である。荷車を引いて寺まで帰るのも一苦労になるだろう。
そこへ三郎が、ひとつの桶を持って現れた。中には白い粉がどっさりと入っている。「これがあれば大丈夫ですよ」と三郎は言う。弟子たちは首をかしげるが、三郎はおもむろに桶の粉を手袋をした手でつかみ、道にまいていく。
「これは塩化カルシウムです。道の雪を溶かしてくれますよ。」と三郎が説明する。
弟子たちは目を丸くする。「そんな便利な粉があるんですか!」と妹弟子が驚く。
「これは、裏山の鉱山で掘った鉱石から金属を精錬する際にできる廃液から作ったものです。」
「えっ廃液ですか?」
「鉛などの危険なものはすっかり取り除いて、酸もちゃんと中和してあるので心配ありません。」
「どうやって作るのですか?」
「まず金属の鉱石を酸でとかして食塩や亜鉛で処理して精錬し、純粋な金、銀、銅、などを取り出します。」
「それでお寺はお金持ちなんですね」
「ははは。金属を取り出したあとの廃液も捨てないで石灰で中和して塩化カルシウムを作ります。」
本当は廃液から塩化カルシウムのほかに硝酸ナトリウムもできる。硝酸ナトリウムは硝石の原料になり、またもとの硝酸をつくる材料にするのだが、それはまだ秘密なので弟弟子・妹弟子たちには、三郎は説明しない。硝石は黒色火薬の原料にもなるので扱いは慎重にしなければならない。
「廃液は捨てればただの厄介もので山を汚してしまいますが、ちゃんと中和して、こうして雪を溶かすのに役に立ちます。お寺ではすべて無駄にしないのです。」
三郎は淡々と説明するが、弟子たちはよくわからないがすごいなあと感心しきりである。「何でも役に立てるんですね」と誰かがつぶやくと、「廃液まで利用するとは、さすが三郎さまです」とお調子者が頭を下げた。
みんなで手袋をして、道に塩化カルシウムをまいていく。
「本当にこんな粉で雪が溶けるのかなあ」
「三郎先生がおっしゃるなら本当なんだろうがなあ」
みんな地元生まれで、雪の脅威を知っているだけにこんな粉で雪がとけるのか、弟子たちは半信半疑である。
ミツの予想どおり、翌朝は一面の銀世界である。
田も畑も山も雪で真っ白だ。
しかし、融雪剤をまいた砂利道は黒々として雪が積もっていない。
スコップやスキやクワでの雪かきを覚悟していた弟子たちは、目を丸くして驚く。「すごい!」と歓声が上がる。
「科学の力ってすごいですね。化学肥料だけじゃないんだ」と弟子たちも感心しながら、三郎の後について道に追加の塩化カルシウムをまいていく。雪道の苦労がなくなり、弟子たちは口々に「こんな楽な冬ははじめてだ」と大喜びである。
こうして、雪が降るたびに三郎の塩化カルシウムは大活躍した。弟子たちも「銀を作ると雪道も楽になる」という不思議な知識を得て、「寺は何から何まで役に立つものだらけですね」と感心しきりであった。
雪はまだ続きそうだが、三郎とミツ、そして弟子たちは、冬も笑顔で乗り切れそうである。
融雪剤ありがたいですね。




