第62夢 回転馬スキ ディスクプラウの夢
鋼鉄の円盤が三つもついた農具はどんな活躍をするのでしょうか?
「あくり」は力強く歩を進め、その後ろで畑の土がふわりとめくられていく。まるで魔法のように、馬スキが地面に吸い込まれ、軽々と畑を耕していくのを見て、弟子たちは言葉を失った。
「これは忍者、忍の忍術に違いない!」
お調子者の弟弟子が叫んだ。しかし、笑うものは誰もいない。みんな真剣な眼差しで、新しい馬スキの動きを凝視していた。
「待って! 刃が……回転しているんだわ!」
妹弟子が驚きの声を上げる。
「すごいでしょう、回転馬スキです!」
ミツは誇らしげに胸を張った。
お坊さまがミツと三郎に教えたこの回転馬スキは、後の時代に「ディスクプラウ」として知られる農具だった。実際に発明されたのは1847年のアメリカ。北米大陸の開拓に大活躍した農具だ。
しかし、鋼鉄の棒に鋼鉄の円盤状の刃が斜めについていて回転する単純なしくみなので江戸時代初期の鍛冶屋である三郎にもつくることができた。
何千年も前から使われている普通の固定式の馬スキと違い、この馬スキの刃は大きな鋼鉄の円盤でできている。しかも、その円盤が自由に回転することで、土の抵抗を減らし、驚くほど軽い力で耕すことができるのだ。
三枚刃にもかかわらず、馬一頭で引けるのはこの構造のおかげだった。
さらに土の中に大きな石があると普通の馬スキではひっかかってしまい、馬も人もケガをしたり、馬スキが壊れてしまったりするが、回転馬スキ(ディスクプラウ)は刃が回転して力を逃がし石をすくいあげるので安全である。
「おい……あの鋼鉄の円盤、ひとつで家が建つんじゃないか?」
「お侍さまの刀が何本できるだろう?」
弟弟子たちが圧倒されたように呆然とぽつりぽつりとつぶやく。
鋼鉄が金や銀に次ぐほど高価なこの時代、江戸時代初期に、たとえ原理を考えついたとしても、こんな大きな鋼鉄の円盤を三枚も農具に使うなんてことは常識ではあり得ない。
反射炉の時代より先の高炉転炉の時代、鋼鉄が安くなった19世紀のアメリカだからこそ発明され普及した農具だ。
しかし、ミヤザワケンジ2.0とミツと三郎が改変したこの江戸時代初期には太陽炉がある。高炉転炉システムほどではないが、反射炉よりも鋼鉄が安く燃料なしに量産可能だ。
「これがあれば、畑を耕すのが今までの何十倍も楽になる……」
「30倍だ、確かに30倍だ。」
「こんな農具、見たことがない……」
弟子たちは次々と感嘆の声を漏らしながら、回転馬スキの動きを目に焼き付けるように見つめていた。
らくらくと肥料散布と畑を耕す作業を終えた三郎を見ながらミツは満面の笑顔で弟子たちに言った。
「どうですか? これからの時代は、これで畑を耕していきますよ。」
ミツの言葉に、弟子たちは力強く頷いた。
新しい時代が、確かにここから始まろうとしていた。
このあとも鋼鉄の農具が登場します




