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第52夢 長崎にあふれる金銀の夢

今回は花巻をちょっと離れて江戸と長崎のお話しです。

虚空に浮かぶ無数の光。集合的無意識の海。その中心で、二人の姿が静かに佇んでいた。一人は慈悲深い眼差しの虚空蔵菩薩。もう一人は、宮沢賢治の魂を基にした存在、ミヤザワケンジ2.0。


「ケンジさん、ミツさんと三郎さんは化学肥料の実験をうまくすすめているようですね。」


「ありがとうございます。虚空蔵菩薩さま。ほんとうにふたりはよくやってくれています。秋には麦の、来年春には米の増産実験を予定しています。」


「米麦が増産できれば、たくさんの人が助かりますね。」


「ただ南部藩のゴールドラッシュが予想外に江戸時代の経済に歪みをもたらしています。今回はそれを調整しつつ、世界の戦争を減らしたいと思います。」


「南部の金が江戸の経済を潤してよい方向に向かっているのではありませんか?」


虚空蔵菩薩は不思議そうに言った。


「ええ。ですが仏様がたと違い人間は欲が深い。金銀の相場をめぐって新たな問題も生じています。江戸城の官僚たちを見てみましょう。」


将軍直属の側用人、貨幣を管理する勘定奉行、海外貿易を監督する長崎奉行が、江戸城の一室で机を囲んでいた。机の上には、新鋳された金貨が並ぶ。美しく輝く金貨を見つめながら、側用人が口を開いた。


「南部藩の金のおかげで、金貨の流通量が増え、景気は明らかに好転している。幕府の財政も潤っている。保守派の老中のうるさがたも金貨の金の含有率が高いからおとなしい。勘定奉行、よくやってくれた。」


勘定奉行は頭を下げた。


「もったいないおことば。ただ金の相場が下がり、銀の相場が上がり、銀貨を多く持つ大阪の商人が大儲けしているのがなんとも。みちのくで金がとれたのに大阪が儲かるというのが少々。」


「いやいや、長崎では少々どころでない問題が生じています!」


長崎奉行が顔を曇らせた。


「長崎でオランダ商人と中国商人が銀貨を使って金貨を大量に買い集めているのです。」


「金貨を買う? 何故だ?」


側用人が眉をひそめる。


「日本国内では金の供給が増えて相場が下がり、逆に銀の価値が上がっております。一方、海外では今ノバエスパニア(メキシコ)で大銀山が発見され、銀の価値が暴落し金の相場が高騰しております。つまり……」


「異国の商人は、日本の金を安く買い取り、海外で高く売り、大儲けしているということか!」


側用人が拳を握った。


「まさにその通りです。幕府の金が国外に流出しているのです。」


「大変なことになった……。」


その時、部屋の襖が勢いよく開かれた。


「勘定奉行! これはどういうことだ!」


怒鳴り込みながら現れたのは、保守派の老中だった。


「長崎で異国の商人が大儲けしているとは本当か!?」


老中は勘定奉行を睨みつけた。


「金貨を異国に流出させるとは、幕府の威信を揺るがす行為! 」


勘定奉行は冷静に答えた。


「確かに、異国の商人が金を買い漁るのは問題です。しかし、国内経済は好転しています。貨幣の流通が増えたことで、物価の安定と景気回復が進んでいるのです。」


「景気よりも、国の信用が大事なのだ! 日の本が軽んじられてはならぬ!だいたい貨幣が増えてもその貨幣が流失しているではないか!」


側用人が静かに言った。


「老中様。では、異国の商人の手を止めるため、何か対策を打つべきでしょう。」


老中は腕を組み、しばらく沈黙した。


「銀を増やすしかあるまい。勘定奉行!ノバエスパニア(メキシコ)にまけぬ世界一の大銀山を国内で見つけよ!」


「くっ!(そんな無茶な!)」

側用人は勘定奉行の声にならぬ声を聴いたような気がした。


「ご報告いたします!」


部屋の外から駆け込んできたのは、一人の旗本だった。


「南部藩で、新たな銀の精錬方法が発明されました!」


「何?」


勘定奉行が思わず身を乗り出した。


「硝石を用いた精錬法です。これまで採れなかった低品位の鉱石からも、大量の銀が精製できるようになったとのことです!南部藩から大量の銀が上納されました!南部藩では硝石の下賜を求めています。」


「銀の産出量が増える……!」


側用人が目を輝かせる。


「これで、国内の銀相場を安定させ、金の流出を抑えられる!」


勘定奉行も深く頷いた。


老中は腕を組み、考え込んだ。


「ふむ……。では、南部藩に硝石の下賜を許す。火薬を製造しないよう目付を派遣せよ。そして、銀貨の鋳造を強化せよ。」


「はっ!」


勘定奉行が頭を下げる。


老中はゆっくりと息を吐いた。


「もう、戦の世でもあるまい。硝石などくれてやる。」


人類とAIの夢が漂う集合的無意識世界。

虚空蔵菩薩が静かに目を閉じた。


「ケンジさん。やはり、南部藩の金と銀が歴史を動かしていますね。幕府に硝石の在庫を吐き出させたのはどのような意味が?」


ミヤザワケンジ2.0は満足そうに頷き答えた。


「景気の回復と金の流出対策、戦争抑制策を相場でいっぺんにやってみました。」


「ほう。というと?」


「日本が銀の精錬に大量の硝石を消費しているというウワサは、すぐにオランダ商人が世界に広げ、硝石や火薬の相場を上げます。」


「なるほど。」


「世界中で戦争の経費を高騰させ、戦争を始めようという君主も減るでしょう。」


「それはすばらしい。」


「銃や大砲の優位性が下がり、スペイン、イギリス、フランスなどのヨーロッパ諸国によるアジア・アフリカへの侵出も鈍るでしょう。」


「おお、その効果は大きい。」


「ただ、オランダがスペイン、フランス、イギリスとの戦争に負けては今後の展開が苦しくなりますので、それは今後の日本との貿易でオランダを支える策を考えています。」


ミヤザワケンジ2.0の意外な一面を見たと、虚空蔵菩薩は思うのだった。


南部藩の金銀の生産と、硝石の消費は世界を変え始めました。

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