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第48夢 化学肥料を使ってみよう その1 除草剤で捨て子を助ける夢

いよいよ石灰窒素を畑にまく実験を始めます。

翌朝、畑に立つミツと三郎。

白い手ぬぐいで口と鼻を覆い、銀縁のダテ眼鏡をかけて目を守る。手には、ミツが縫った手袋。お坊さまのお話によると、石灰窒素は目や肌をただれさせるので、しっかり防備しないといけないのだ。


「三郎さま、わたしの格好、なんだか町のお医者さんみたいじゃありません?」


ミツが笑いながら言うと、隣の三郎も苦笑した。


「確かに。でも、安全が第一ですからね。それにしても、石灰ちっそって、本当にそんなに強いんですね。」


「お坊さまのお話では、最初は雑草を枯らす薬になるけれど、そのあと分解して肥やしになるそうですよ。」


「実際にどうなるか。やってみるしかないですね。ミツさんの腕に期待しますよ。」


ミツはうなずき、畑を三つに区切った。


ひとつ目の畑には馬糞堆肥をまく。今までの肥やしのやり方に近い。


「うぅ……重い……!やっぱり堆肥まきは大変ですねぇ。」


重い金槌を振り慣れている鍛冶屋の三郎も畑に堆肥をまくのは勝手が違うようだ。


いっぽう、農家の三女ミツは慣れたもので、手早く鋤で馬糞をすくい、せっせと畑に撒いていく。すぐに汗がにじむ。


「でも、堆肥をまくといい土になるんですよ。」


ふたつ目の畑には石灰窒素をまく。

ミツと三郎は石灰窒素をほんの少し、均等に振りまいた。


「おや、こっちはすごく楽ですね!」


三郎が喜んで言う。


「そうですね。堆肥と比べると、ずいぶん軽くて撒きやすい……ただ、この臭い……。」


ミツは手ぬぐいの上から鼻を押さえた。


「ちょっと独特な臭いですね。でも、風向きを考えれば大丈夫そうです。」


三郎も手ぬぐいの上から鼻を抑えて言った。


三つ目の畑には石灰窒素を溶かした水をまく。


おけに水を入れ、少しずつ石灰窒素を溶かす。いっぺんに溶かすと熱が発生してしまうとお坊さまが言っていたのだ。


自分にかからないように注意して石灰窒素を溶かした水を畑にまいていく。


「おおっ、こっちは臭いも気にならないし、まくのも簡単ですね!」


喜ぶ三郎。


「楽なのはいいですね。でも、これで本当に効果があるのかどうか。どうなるのか楽しみです。」


ミツは三郎を見て微笑んだ。


10日後、ミツと三郎は、畑の様子を見に来た。


ひとつ目の馬糞堆肥をまいた畑のようすを見る。

三郎があきれたように言う。


「雑草が青々と育ってますね。元気がいいですね……。これ、雑草を育てたようなもんですね。」


「三郎さま、これが普通ですよ。雑草も刈れば肥やしになりますから。こんなもんですよ。」


「刈るのが一苦労ですね……。」


「三郎さまの草刈り鎌なら、あっという間に刈れますよ。」



次に石灰窒素をまいた畑を見た。

ミツと三郎は顔を見合わせた。


「枯れてる……!」


二番目の畑も三番目の畑も雑草が茶色く変色し、すっかり枯れている。


「ミツさん。お坊さまのお話どおりでしたね! 石灰窒素には、雑草を枯らす効果がある。」


「まいた量はほんの少しなのに、こんなに枯れるなんて!」


二人は驚きのあまり、しばらく畑を眺めていた。


「農作業の半分近くは草取りだって、草取りさえ無ければ楽なのにって、お母さんがよくグチを言ってました。」


「ミツさん、草取りの苦労がなくなれば、田畑をもっと増やせますね。田畑の開拓も楽にできますね。」


三郎は手を叩いて喜んだ。

ミツは引き締まった表情で頷く。


「開拓をはじめるときが、一番、雑草との戦いが厳しいですからね……。もし石灰ちっそで雑草を枯らせるなら、新しく田畑を増やすことも簡単になります。」


「そうしたら、農家の次男、三男、次女、三女の人たちにも、仕事ができますね!」


三郎の声が弾む。



「捨てられる赤ん坊もいなくなるかもしれません。」



ミツは静かに言った。


「ミツさん……。」



三郎は、その言葉の重さを感じた。

農村では、食べるものがなくて捨てられる赤ん坊がいる。口減らしのために江戸の遊郭に売られる女の子がいる。でも、もし石灰窒素で雑草を枯らして田畑を増やし、食料を増やせたらみんながふるさとで暮らせるかもしれない。


「この実験がうまくいけば、本当に人を救えるかもしれませんね!」


三郎も真剣な目で言った。


「でも、三郎さま、まだ実験は途中ですよ。」


ミツは慎重に言った。


「そうですね、ミツさん。石灰窒素は雑草を枯らすだけじゃなく、作物を育てることができるのか、確かめなければなりませんね。」


三郎も気を引き締める。


「よし! 三郎さま、次は、青菜の種を蒔いて、どの畑が一番育つか試しましょう!」


ミツが気合いを入れて言った。


「やりましょう!ミツさん!」


三郎も力を込めて言った。


二人は畑を見つめ、世の中をかえるかもしれない、新たな実験に向けて、意気込んでいた。

石灰窒素は肥料ですが、現代でも、除草剤と殺虫剤として、農薬としても登録されています。

用法用量を守って正しく使ってください。


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