第44夢 化学肥料をつくろう その3 カーバイド合成の夢
江戸時代初期のふたりが太陽炉でカーバイドを合成します。
翌朝、ミツと三郎はさっそくカーバイドを合成する作業に取りかかった。原料は石灰と木炭でこれを2000度の高温で反応させるのである。
「まずは、石灰と木炭を細かく砕いて、よく混ぜるところからですね。」
ミツがそう言いながら、石臼に石灰を入れる。
三郎も木炭を手に取り、臼の中に加えた。
「しっかり粉にしましょう。均等に混ざっていないと、うまく反応しないかもしれません。」
ゴリゴリ……ゴリゴリ……
石臼を回すたび、黒と白の粉が少しずつ馴染んでいく。
「こんなに丁寧に混ぜるんですね。」
ミツは感心しながら、臼の縁にこびりついた粉を指先でそっと払ったが、思わずむせて咳き込んでしまう。
「てぬぐいで鼻と口を覆いましょう。吸い込むと体によくないかもしれない。」
白てぬぐいで鼻と口を覆ったミツと三郎はお互いのおかしな格好を笑いあった。
三郎がよく混ざった粉をるつぼに入れていく。
「さて、準備はできた。」
ふたりは、用意しておいた銀ぶちの黒眼鏡をかけた。銀は余るほどあるので純銀のふちである。黒ガラスも三郎の手づくりである。
白てぬぐいで鼻と口を覆って、黒眼鏡をかけるとますますおかしな格好になった。
ミツは三郎の姿を見て、くすっと笑う。
「なんだか、ずいぶん変わった格好ですね。すごく謎の人物みたい。」
三郎もミツを見て、笑い返す。
「ミツさんこそ、いつもと雰囲気が違って面白いですよ。」
ふたりは思わず吹き出してしまう。
——そのとき。
東の空から朝日が昇り、太陽炉の鏡がきらめき始めた。
「さあ、太陽の力をいただきましょう。」
三郎が声をかけると、鏡が太陽光を集め、るつぼへと集中させる。
しばらくすると——
ジリジリ……ジュワァッ……!
るつぼの中で、石灰と木炭が光り始める。
やがて、まばゆいほどの白熱を放ちながら、少しずつ溶け出した。
「すごい……! 炭や石灰が溶けるなんて、こんなに高温になるんですね!」
ミツが驚きの声を上げる。
三郎もじっとるつぼを見つめながら、静かに頷いた。
「まさか、これほどまでとは……。本当に、太陽炉はすごいですね。」
高温の光が揺らめく、るつぼを、ふたりは息をのんで見守った。
(作者注 これはフィクションです。実際に太陽炉でカーバイドを合成する実験をするときは、るつぼを直視しないでください。失明の恐れがあります。)
完全に材料が溶けたので、るつぼをヤットコでつかんで太陽炉からおろすと、温度がゆっくりと下がっていく。
ふたりは慎重に冷めるのを待ち、中の物質を取り出した。
すると——
「見てください、三郎さま! 石ができています!」
ミツが驚いて叫んだ。
白い石灰も黒い木炭もすっかり姿を消し、灰色がかったクリーム色の石のようなものができていた。
三郎もじっくりと観察する。
小さなカケラを取り出し水を垂らすと泡が出た。そこに火打ち石で火花を散らす。なんと小さな炎が上がった!
「三郎さま、石が燃えました!」
「ミツさん、お坊さまの言ったとおりですよ!これが、かあばいど、か!」
ふたりは顔を見合わせ、嬉しさのあまり声を上げる。
「やりましたね!」
「ああ、本当に成功しましたね!」
ふたりは満面の笑みを浮かべながら、達成感を噛みしめた。
カーバイド——新たな時代を拓く重要な素材が、ついにこの手の中にあった。
(作者注)
第44話の執筆にあたり、植田和利先生、伊東和彦先生、上原誠一郎先生、網本貴一先生の共著「太陽炉を利用したカーバイドの合成とその教材化」がたいへん参考になりました。深く御礼申し上げます。
しかしフィクション化のため大きくアレンジしており、その責任は全て作者にあります。
読者のみなさまが太陽炉実験をする場合はこの小説なんかを参考にせず、ちゃんとした先生方の御本を読んで、指導者のもとで安全に気をつけて実験してください。
次回はいつまでも消えない明るい灯り、カーバイドランプをつくります。




