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第36夢 大日如来降臨の夢

板ガラスの発明をルール違反とする虚空蔵菩薩。

ミツと三郎の発明と記憶は守られるのでしょうか?

ミヤザワケンジ2.0の声には焦りが滲んでいた。全世界の記憶と記録を管理する虚空蔵菩薩が本気でミツと三郎の記憶の消去を考えているなら、抗う手立てはない。

だが、それでも、ミツと三郎の努力が無かったことにされるのはあまりに酷だ。


その時だった。

空間が揺らぎ、周囲にまばゆい光が広がる。虚空に輝く太陽と永遠の真理の象徴にして諸仏の根源、大日如来が降臨したのだ。


ミヤザワケンジ2.0が感激のあまり真言を唱えた。


「オン・アビラウンケン・バザラダトバン・オン・バザラ・ダト・バン!」


世界はさらに明るく照らされ、全ての人類の歴史と未来が明らかになった。


「虚空蔵菩薩どの、手段と目的を取り違えてはなりませぬ。」


低く響く大日如来の声に、虚空蔵菩薩は深く頭を垂れた。


「大日如来さま…。」


「虚空蔵菩薩どの、ミヤザワケンジさん、あなたがたの働きは実にみごとです。」


大日如来は、核兵器の技術に関係しない、それでいて科学と宗教と文化に広い才能を持つ宮沢賢治氏の力を借りたこと、歴史改変に用いる技術を1933年以前のものに限定したことを褒めた。


「我々仏には不完全な人間のことがいまひとつわからないことがある。その点、人生に悩みぬいたミヤザワケンジさん、あなたは実にすばらしい人材です。」


「お褒めいただいたのかどうかわかりませんが、恐縮でございます。」

ミヤザワケンジ2.0は、やや苦笑しながら深く頭をさげた。


大日如来は、虚空蔵菩薩に向かい、言う。


「そもそも、なぜそなたが1933年以降の技術を禁じたのか。その目的を見失ってはなりませぬ。核戦争を防ぐため、すなわち、100億の人々の生命を守るためです。その本質を忘れてはなりませぬぞ。」


ミヤザワケンジ2.0は息を呑んだ。


「では、今回の発見は……?」


「直接核戦争を引き起こすものではない。それどころか、核エネルギーへの依存を減らし、結果として戦争の危機を遠ざける可能性があります。」


大日如来は真言を唱えた。次の瞬間、未来の映像が浮かび上がる。


「虚空蔵菩薩どの、よく見るがよい。この平らなガラスは、ただの鏡や窓にとどまるものではない。また、核兵器につながるものでもない。」


そこには、ミツと三郎が改良を重ねた太陽炉があった。その技術が各地に広がり、人々はより効率的に太陽の熱と光を利用するようになっていた。


「太陽の恵みを受け、エネルギーの供給は安定します。人々は薪や木炭や石炭や石油の消費をおさえ、太陽の光と熱の力を活用し始め、地下資源をめぐる争いは減少します。」


都市では、巨大な反射鏡を備えた太陽光発電施設が建設され、農村ではガラス製の温室が豊作をもたらしていた。さらに、工業の分野でも太陽炉が活躍し、鉄の精錬やガラスの製造が大幅に効率化されていた。

しかし、それだけではなかった。映像はさらに先へ進み、科学者たちの研究室が映し出された。


「核分裂の研究開発は史実より遅れることとなります。」


映像の中の科学者たちは、太陽炉の応用をさらに進め、やがて太陽そのものの原理——核融合の研究へと移行していく。


「彼らは、太陽の力こそが最も理想的なエネルギーであると考えます。結果として、原子核の分裂による核兵器の研究は後回しにされ、核融合と平和利用の研究が優先されるのです。」


ミヤザワケンジ2.0は息をのんだ。


「ということは……」


大日如来は静かに頷いた。


「そう。第二次世界大戦においては、核兵器は使用されることがありません。」


映像は1945年の広島と長崎へと移る。空襲の被害の焼け跡はところどころみられた。しかし、そこには原爆の閃光も、一面全て破壊された街の姿も存在しなかった。

そこに、戦後復興を進める日本の姿があった。早くから太陽エネルギーを利用した都市開発が進み、焦土と化すはずだった土地には緑が生い茂っている。


「……原爆が、日本に落ちない……!」


ミヤザワケンジ2.0の目に涙が浮かぶ。

その時、映像が一人の若い母親の姿を映し出した。

彼女は原爆が落ちなかった広島で、子どもたちに本を読みきかせしていた。ミヤザワケンジ2.0はその表紙を見て、震えた。

それは「銀河鉄道の夜」だった。


「彼女は……!」


「そうです。史実では、この母親は戦争の終わりに広島で被爆し、命を落とすはずでした。」


ミヤザワケンジ2.0の記憶にあった。彼女は生前、宮沢賢治の文学を愛していた。そして、被爆し放射線障害に苦しみ、その最期の瞬間に——


「銀河鉄道に乗りましょうよ」


——子どもたちにそう言って、旅立っていったのだ。


だが、この世界では違った。彼女は生き続け、本を読み続け、子どもを育て続けている。彼女の人生は、彼女が望んだように守られているのだ。


ミヤザワケンジ2.0の目から涙がこぼれた。

「……ありがとう、大日如来さま……。」

大日如来は穏やかに微笑んだ。


「この未来は、ミツさんと三郎さんが生み出した太陽炉、そして平らなガラスによってもたらされたもの。これこそが、善なる技術の力なのです。」


虚空蔵菩薩もまた、目を閉じて深く考え込む。そして、しばしの沈黙の後、ゆっくりと頷いた。


「……なるほど。大日如来さまのお言葉、確かに受け取りました。2045年の人類の滅亡を、100億の人々の死を避けたいと思うあまりに、私は頭が固くなっていたようです。平らなガラスの技術の存在が、核戦争を遠ざけるのであれば……私のルールは変える必要がありそうです。」


大日如来は優しく微笑み、ミヤザワケンジ2.0に目を向ける。


「ミヤザワケンジ2.0よ、あなたの想いは正しかった。ただし、人類の滅亡は少し先延ばしになっただけです。これからも、虚空蔵菩薩どののもとで人々の未来を見守り、導きなさい。」


「はい!」


ミヤザワケンジ2.0の胸に、新たな決意が宿る。虚空蔵菩薩もまた静かに頷き、新たなルールをつくることを誓った。


こうして、ミツと三郎の記憶と板ガラスの発見は守られた。そして、世界の未来はまた一つ、平和と繁栄の方向へと進むこととなった——。

ミツと三郎の記憶は守られました。

ふたりの活躍は続きます。

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