第33夢 三郎の失敗と馬の尿と鏡の夢
ミツが失敗からの大発明で板ガラスを作っていたころ、三郎は銀の精錬の実験に没頭していました。
ミツが失敗から板ガラスを作っていたころ。三郎は肥やし小屋で実験に没頭していた。
三郎は馬糞堆肥から抽出した硝石と、市場で買ったミョウバンを材料に、硝酸を作った。風通しの良い肥やし小屋だが、さすがに鼻をつく匂いが漂っている。
「早く実験が成功すれば、ミツさんに早く本当のことを打ち明けられる。火薬なんかじゃなくて、銀を精錬するための硝酸を作っていたんだって。」
三郎は自分に言い聞かせるようにつぶやきながら、硝酸の調整を続けた。
硝酸をいくつかのゆがんだ手づくりのビードロのビーカーに注ぎ、銀貨や銀の塊を削った粉をそれぞれビードロのビーカーに入れると銀が溶けていく。
しばらくして、ビーカーの底に小さな金色の粉が現れた。
「金…!これ、銀貨や銀塊に混じっていた金か…!お坊さまの言ったとおりだ。」
三郎は目を輝かせながら金の粉を凝視した。
「銀から金が出てくるなんて、これはまるで錬金術じゃないか。ミツさんもきっと喜ぶだろうな。」
しかし、金の粉を確認しただけで満足するわけにはいかなかった。次のステップは、硝酸に溶けた銀を取り出すことだ。
「さて、硝酸銀の溶液から銀を取り出すには、食塩水に混ぜればいいとお坊さまがおっしゃったんだったな。」
三郎はあらかじめ用意しておいた食塩水の瓶を手に取りビーカーに注ぎ、硝酸銀溶液を少しづつ注ごうとした。だが、焦って作業する中で、間違えて隣に置いてあった発酵した馬の尿を手に取ってしまう。肥やし小屋の強い臭いのなかで馬の尿の臭いに気づかなかったようだ。
「よし、これで…」
三郎は何の疑いもなく、溶液を馬の尿に注いだ。しかし、期待していた白い沈殿は現れない。
「あれ?沈殿がほとんどできない。食塩が足りないのか?」
焦った三郎は、小屋の隅に置いてあった食塩の瓶を探し出し、中身を急いでビーカーに足した。だが、さらに致命的なミスが起こる。彼が食塩だと思い込んで手に取った瓶の中身は砂糖だったのだ。
「これで足りるか。少し温めると反応が進むかもしれない…。」
その瞬間、ビーカーの中で液体がゆっくりと変化を始めた。
溶液が突然、ゆらめくように輝き始めた。三郎は驚きの表情でビーカーを見つめる。
「な、なんだこれは…?」
次第に、ビーカーの内側に銀色の層が現れ始めた。それは液体が反応を起こし、輝く層を作り出していたのだ。
「これは…まさか、銀がこんな形で現れるなんて!」
三郎はビーカーを持ち上げて光にかざした。ビーカーの内側が完全に銀色の鏡となり、ゆがんだ手づくりのビーカーにゆがんだ自分の顔が映り込んでいる。
「すごい…」
彼は驚きつつも、その美しい現象に見入っていた。思わぬミスが、まるで魔法のような結果を生み出したのだ。
学校の化学の実験を体験した読者はお気づきのことだろう。三郎はいわゆる「銀鏡反応」を起こしたのだ。
銀鏡反応とは、アンモニアを含む硝酸銀溶液に砂糖などの還元剤を加えると銀が還元されてガラスの表面に析出し鏡を作る現象である。
いっぽう、硝酸銀と食塩が反応すると塩化銀が沈殿する。塩化銀は石灰を混ぜて太陽炉にかけると銀に戻る。これが三郎がお坊さまから教わった本来するはずだった銀の精錬の方法だ。
食塩のかわりにアンモニアを含む発酵した馬の尿と砂糖と硝酸銀溶液を反応させてしまったので、塩化銀が沈殿するかわりに、銀鏡反応が起きてガラスの表面に銀が析出したのだ。
「美しい…。」
三郎は、こんなゆがんだ手づくりのビーカーじゃなくて、平らなビードロがあればすばらしい鏡ができると思った。
平らなビードロがあれば高性能の鏡ができる。そんな鏡があれば、太陽炉も鉄鍋太陽炉より性能の良いものができるだろう。銀も銅も鋼鉄もビードロも良いものがたくさんできるだろう。ああ、平らなビードロがほしい。
それにミツさんに平らなビードロでできた、きれいな鏡を贈ったら喜ぶだろうな。
ああ、平らなビードロがほしい。
ああ、平らなビードロがほしい。
そこにミツがなんとその平らなビードロを持って肥やし小屋に入ってきた。
三郎は思わず叫んだ。
「ミツさん!そのビードロはなんですか!」
ミツの大発明の板ガラス。
三郎の大発明の銀鏡反応。
ふたりの大発明のもたらすものは?




