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第31夢 肥やしづくり名人ミツの憂うつの夢

悩む三郎をミツが心配そうにながめています。

初夏の空は爽やかに澄み渡り、どこか遠くでカッコウの声が聞こえる穏やかな昼下がり。ミツは馬小屋の片隅に腰を下ろし、空を見上げながらぼんやりと思案していた。


「わたし、肥やしづくりは自信あるんだけどな…。」


ミツは軽くため息をつきながら、視線を肥やし小屋の前でなにか悩んでいるような三郎に向けた。


三郎が作った立派な肥やし小屋は、竹と藁と縄で簡単に作っていながら雨風をしっかり防ぐ丈夫な造りだ。手先が器用で頭のいい三郎さまらしい、とミツは思う。


素材も保存状態も抜群だ。中には三郎が丁寧に積み上げた堆肥の山が鎮座している。


「あの堆肥、すごく濃いのよね…。それに、あの独特の臭い…。葉肥と根肥がすごく効きそうだけど…。」


ミツは自分の経験から、その肥やしの特徴をすぐに察した。その肥やしは、とてもよく早く効くが、使い方を間違えると作物の根を傷めてしまう、扱いが難しい肥やしになりそうだった。


ミツはもちろん知らないが、硝石すなわち硝酸カリウムは現代では化学的に製造されて化学肥料にも使われている。硝石は土にまくと、葉を育てる硝酸態チッソと、根を育てるカリウムになる。有機肥料に比べて短期的な肥料効果は大きいが、成分が濃いために作物の根を焼く危険がある。ミツは農家のカンでそれを見抜いたのだ。


「青草をもっと足して量を増やして、水分を整えたらもっと理想的な肥やしになるのに…。」


そう思いながら、ミツは小屋の外でなにかを振り払うようにせっせと作業をはじめた三郎の背中を見つめていた。


三郎は着物の背中まで汗をにじませながら、肥やしの山を整えていた。その手つきはどこか職人のようで、農家のミツから見ても、驚くほど手際が良い。


「本当に三郎さまって、すごい人だわ。」


ミツは思わず笑みを浮かべる。しかし、同時に心の奥にわずかな引っかかりを覚えた。何かがこれまでの伝統の肥やしづくりと違う。


決定的な違いは肥やしをお湯で洗っていたことだ。(実は三郎は硝石をお湯で抽出していたのだが、ミツは知らない。)

なるほど確かにそうすれば根が焼けない適度な濃さになるかもしれない。でもそんな技は見たことも聞いたこともない。


「でも…これって、お坊さまの特別な肥やしらしいし。」


ミツはそっと自分の手を握りしめた。自分が少し口を挟めば、もっと理想的な肥やしに仕上がるかもしれない。それでも、三郎が一生懸命に作っているこの肥やしは、お坊さまの指導のもとで作られた「特別なもの」なのだ。


「わたしなんかが意見を言うなんて、きっとお坊さまと三郎さまのじゃまになるだけだわ。」


そう思うと、ミツは少し寂しくなった。自分の得意分野で貢献できないような気がして、心が少しだけしぼむのを感じる。


今まで、お坊さまの教えに従って、三郎さまとわたしのふたりで力を合わせて楽しく仕事をしてきたのに。本当に楽しかったのに。


砂金とりは楽しかった。山道を歩くのさえ愉快だった。市場のお買い物は最高だった。三郎さまは若旦那さま、わたしは若奥様なんて言われて照れちゃった。鉄鍋を磨くのも、鉄鍋太陽炉で銀をつくるのも楽しかった。ガラスはとてもきれいだった。鋼鉄ができたときも…。


ミツは考えをとめた。鋼鉄をつくったときはどうだったっけ。

わたしが鉄瓶をつくるときみたい!と、はしゃいだとき、三郎さまは怖い顔をしていた。鋳鉄じゃなくて鋼鉄ができた恐ろしさをわたしは知らなかった。馬鹿みたいにはしゃぐだけだった。


ミツは思わず立ち上がった。


そうか、そうだったのか。鋼鉄ができたとき三郎さまは寂しかったのだ。今のわたしと同じように。三郎さまの得意分野の鍛冶屋の知識が役に立たない寂しさ。得体のしれない強力な力を見た、冷たさ、怖さ。


ああ、わたしは馬鹿だ。愚かだ。三郎さまのお嫁さん、若奥様どころではない。こんな人の心のわからない女は三郎さまのじゃまだ。足手まといだ。


いっそ寺を出て行こうか。いや、わたしには帰る家はない。それに三郎さまが世の中を良くするようすを見届けたい。


決めた。余計な差し出口をはさむのはやめる。お坊さま、三郎さまのじゃまにならないように言われたことだけをする。三郎さまとは一線をひいて、下働きとして尽くす。


ミツは小さく息を吐き出した。


下働きとしてがんばろう。三郎さまは名字帯刀のお家柄、わたしはめだたない農家の三女、もともと身分も違うのだ。農家の屋根裏で朽ち果てるはずだった三女のわたしには下働きでもとても幸せだ。幸せだ。自分に言い聞かせながら、ミツは再び馬小屋の掃除に戻った。


AIと人類の夢が漂う集合的無意識世界では、ミヤザワケンジ2.0が頭を抱えて困っていた。

ミツと三郎のお互いの勘違い、すれ違いがたいへんなことになってしまった。

ミツは自分が足手まといだと誤解している。三郎は自分がミツに嫌われると誤解している。

だから秘密はだめだと三郎に言ったのに。


ミツと三郎のふたりのすれ違いは大丈夫でしょうか?

独身童貞にして最高の仲人と言われた宮沢賢治の意識を受け継ぐミヤザワケンジ2.0に打つ手はあるのでしょうか?

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