第24夢 ミツと三郎の世の中を変えてしまう恐ろしさの夢
鉄鍋太陽炉で鋼鉄が簡単にできたことに震える鍛冶屋の三郎。
ミツと三郎は世の中を変える怖さについて話し合います。
午後の太陽が高く空に輝き、三郎とミツは庭先に腰を下ろしていた。鉄鍋太陽炉の午前の作業を終えた後の穏やかなひとときだったが、三郎の表情は沈んでいる。
「ミツさん…」
三郎はぽつりと口を開いた。
「この太陽炉で、鋼鉄を簡単に作れることがわかりました。これは怖いことです。」
ミツは意外そうに三郎を見つめた。
「怖い…?どうしてですか?」
三郎はゆっくりとうなづいた。
「今まで、鍛冶屋は鉄を作るのにものすごく苦労してきました。何日も炉の火を絶やさずに燃やし続け、膨大な量の木炭と砂鉄を使ってようやく少しの鋼鉄を得る。それを金づちで叩いて形を作る。あの労力と技術があるからこそ、鍛冶屋の仕事が成り立っているんです。」
ミツは黙って三郎の話に耳を傾けた。
「でも、この太陽炉が広まれば、そんな苦労をしなくても鋼鉄が簡単に手に入るようになります。そしたら、今までの鍛冶屋はどうなるでしょう?必要なくなって、みんなつぶれてしまうかもしれません。」
三郎の声は次第に低くなり、視線は地面に向けられた。
「代々鍛冶を生業にしてきた家が、技術も伝統も失ってしまう。それを考えると、どうにもやりきれなくて…。」
ミツは静かに三郎の言葉を受け止めた。
彼女の中にも、ふと別の心配が浮かび上がった。
「三郎さま…」
ミツは慎重に言葉を選びながら続けた。
「鋼鉄が簡単に作れるようになると、鎌や鍬が安くなって農家はうれしいんですけど…。
ひょっとして刀や鉄砲も安く作れるようになるんじゃないですか?」
三郎ははっとして顔を上げた。
「刀が安くなる…」
ミツは少し声を落とし、不安そうに言った。
「もし刀が安くなれば、お侍さんだけじゃなく、ばくちうちや、盗っ人もこっそり安く刀を手に入れられるようになりますよね。そうしたら農家や商人も身を守るためにこっそり刀を持つかもしれない。それって、昔みたいに、みんなが武器を持つ世の中に戻るってことじゃないでしょうか…?」
三郎はその言葉に驚き、息を飲んだ。
「確かに…!そうなれば、争いごとが増えてしまうかもしれない。いや、戦さの世の中に戻ってしまうかもしれない。」
ミツはぽつりぽつりと話す。
「村のお年寄りは良く言いますよね。昔は戦が多くて、若者が駆り出されたり、田畑が荒らされたり、野武士が人さらいをしたりしたって。刀や鉄砲が安くなって、そんな世の中に戻るのはイヤです。」
三郎がハッと気がついたように言う。
「そうだ、刀や鉄砲だけじゃない。大砲も心配だ。今の大砲は鋳鉄や青銅で鋳造していますが、鋼鉄が溶かせるなら鋼鉄の大砲もできるかもしれない。とんでもない遠くから大きな弾丸を飛ばせるようになるかもしれない。」
二人はしばらく黙り込んだ。庭先では午後の光が穏やかに差し込み、梅の木の影が地面に揺れている。
ミツが口を開いたのはしばらくしてからだった。
「でも、三郎さま。今この太陽炉のことを知っているのは私たちとお坊さまだけですよね?」
三郎は静かにうなづいた。
「そうですね…今のところは、誰にも話していません。」
ミツは三郎を安心させるように笑顔を見せた。
「なら、まずはお坊さまが戻ったら相談しましょう。この技をどう使うべきか、一緒に考えればいいんです。焦らずに、いい方法を見つけましょう。」
三郎はミツの言葉に少し顔を上げ、深く息を吐いた。
「そうですね…。悩んでも仕方がない。お坊さまと話せば、きっと何か良い道が見つかるはずだ。」
ミツは力強くうなづきながら、空を見上げた。
「この技は仏様の技です。きっと、平和な世の中を作るために役立てられるはずです。お坊さまと三郎さまと私で、正しい使い方を見つけましょう。」
午後の光が二人を照らし、少しずつ三郎の顔にも笑みが戻ってきた。
「お坊さまが帰られたら、しっかり話をしましょう。」
ミツが元気に言った。
「さあ、握り飯を食べて午後もがんばりましょう!」
三郎もうなづいた。
「午後はビードロをつくりましょう。」
悩んでいてもしかたがない、お坊さまが帰ったら相談しよう。気持ちを切り替えたふたりは、次はビードロ(ガラス)づくりに取り組みます。




