第21夢 農家の三女ミツ、母との別れの夢
お腹いっぱい朝ご飯を食べて、朝から働く、ミツと三郎。
そこにミツの母親がやってきます。
朝日が差し込む中、寺では穏やかな朝が始まっていた。ふたりは、協力して用意した、たっぷりの玄米ご飯、味噌汁、大豆と野菜の煮物、漬け物で朝食をとり、力を蓄えた。
「玄米ご飯、おいしいですね。」
ミツが微笑むと、三郎も頷いた。
「ええ、今日は残りのお米も届くはずですし、毎朝しっかり食べても大丈夫です。」
朝食後、三郎は外で薪割りを始めた。斧を振るうたびに、乾いた音が境内に響く。
朝の静けさを破るように、境内に荷車の音が近づいてきた。米屋の番頭と手代が牛に引かせた荷車で米を届けに来たのだ。
「若旦那さん、お約束の米をお届けしました。これだけあれば一年以上はもちますよ。」
米屋の番頭は笑顔で言いながら、荷車を止める。
三郎は手形を渡し、米を寺の蔵に運び込むように頼んだ。
「ありがとうございます。この量があれば、村の皆さんにも少し分けられるかもしれません。」
「さすが、お寺のお方は言うことが違う。分けて足りなくなったら、またいつでも注文してください。」
米屋の番頭と手代が感心しながら蔵へ米俵を運び込んでいると、ふいに馬のひづめの音が聞こえた。
境内に現れたのは、ミツの母だった。彼女は馬を引きながら、満面の笑みを浮かべていた。
「鍛冶屋の三郎様、お寺のご住職の補佐役ご就任おめでとうございます。そして、ウチのミツを雇っていただき、本当にありがとうございます。」
彼女の言葉に三郎は一瞬戸惑ったが、すぐに昨夜のお坊さまの言葉を思い出した。お坊さまが話をつけてくれたのだと理解し、静かに頷いた。
「こちらこそ、ミツさんには大変助けてもらっています。ありがとうございます。」
すると母親は、となりの農家から借りてきたという馬を指し示しながら言った。
「実は米をいただけないかと思いまして。馬一頭で運べるだけ、お願いできませんかね。」
その言葉に、三郎は内心で思った。
(ああ、この母親はミツさんを馬一頭に積める米で売ったつもりなのだな…。)
だが、彼はその感情を顔に出さず、穏やかに提案した。
「ミツさんに会われますか?せっかくいらしたのですから、どうぞ。」
母親は少しひるんだ様子だったが、すぐに固い笑顔で頷いた。
三郎に呼ばれて、本堂の掃除をしていたミツがやってきた。彼女は母親の姿を見ると、一瞬足を止めたが、やがてゆっくりと近づいた。
「お母さん…。」
母親は見たことのない満面の笑みを顔に張りつけて言った。
「ミツ、家に婿を迎えることにしたから、もう力仕事はお前に頼らない。ウチにお前の仕事はないから安心しなさい。食い扶持が減ってウチは大助かりだよ。」
その言葉に、無理やり家に連れ戻されることを心配していたミツの肩の力がふっと抜けた。
「そうですか…それなら、私はお寺で仕事を続けられますね。」
しかし、同時に母親が本当に自分を必要としていないのだ、という寂しさも、心の片隅に広がった。
ミツはしっかりと母の目を見て、丁寧に頭を下げた。
「お母さん、今までありがとうございました。どうかお元気で。」
母親もさすがに少しだけ真剣な表情になり、ミツの肩を軽く叩いた。
「お坊さまと三郎さまの言うことをよく聴いて、しっかり働くんだよ。ウチにお前の帰る場所はないんだからね。」
母親は馬に積まれた米を確かめると、振り向きもせずに寺を去っていった。
ミツはその背中を見送りながら、そっと目元を押さえた。三郎がそばに立ち、静かに声をかける。
「大丈夫ですか?」
ミツは振り返り、少し涙の滲んだ笑顔を見せた。
「はい、大丈夫です。これで、私も心からここでの生活に集中できます。」
三郎はその言葉に頷き、彼女を優しく見守った。
ふたりの寺での新たな生活が始まった。
「さあ、新しい仕事にとりかかりましょう。この鍋を顔が映るくらいピカピカに磨きあげましょう。」
三郎は寺の蔵から大きな鉄鍋を持ち出して言った。
ふたりの新しい生活が始まりました。
三郎は鉄鍋を磨いて何をしようとしているのでしょうか。




