第19夢 夕陽に照らされる寺で見つけたふたりの輝くあらたな夢
農家の三女ミツと鍛冶屋の三男三郎は、夢のお告げの砂金を使い、花巻の城下町で楽しい買い物をしてお寺に帰ってきました。
若いふたりにはある決意が芽生えていました。
農家の三女ミツと鍛冶屋の三男三郎のふたりは、夢のお告げで採れた砂金を使い、花巻の城下町の市場で楽しく買い物をして、日の沈む前にお寺へ戻ってきた。
重い荷物を運んだ後の疲れが体中に広がっていたが、満たされた気持ちでもあった。
「三郎さま、今日は本当にいろいろあって疲れましたね。」
ミツが柔らかく微笑みながら言うと、三郎は少し笑い、頷いた。
「そうですね。けれど、これでお坊さまが戻られても安心してお迎えできます。本当によかった。ミツさん、どうもありがとう。」
ふたりは荷物を置き、一息ついた。
やがて三郎が口を開いた。
「お腹が空きましたね。お坊さまは、今晩帰られるのか、それとも明日になるのか分かりませんね。先に夕飯にしましょうか。ただ、玄米を炊くのは時間がかかりそうです。」
「そうですね。買ってきた野菜と味噌を使って、いも汁にしましょう。」
ミツが提案すると、三郎もすぐに賛成した。
なぜだか、玄米と味噌と少しの野菜、を食べたかったふたりだったが、空腹に負けて玄米を炊くのは諦めた。
三郎が市場で買ってきたつけ木と火打ち石で手早く火を起こし、ミツが芋と菜っ葉を切って鍋に入れ、味噌味の芋汁をつくると良い匂いが広がった。
ふたりで協力して作った具だくさんの芋汁を何杯もお代わりして食べると、その温かさと素朴な味わいに、ふたりは心もお腹も満たされた。
夕飯を終えた後、お寺の静かな空間でふたりはしばらく黙って座っていた。沈む日の薄明かりが差し込む中、その光はまるで昼間に見た砂金の輝きを思わせるものだった。
三郎がミツに優しく言う。
「もうすぐ夜だし、危ないから今日はお寺に泊まってはいかがですか。このお寺には住み込みのお手伝いの方々用の部屋がいくつかあります。ご両親には明日、私がお詫びに参りますよ。」
やがて、ミツが口を開いた。
「三郎さま…私、もう家には帰らない。」
その言葉に三郎は少し驚いたが、小さく頷くと視線をミツに向けた。
ミツは遠くを見つめながら続けた。
「両親は私が帰らなくても食いぶちが減ったと喜ぶだけです。特に母とはどうしてもわかり合えません。あの家に戻ったところで、私がやれることは何もありません。もう…あんな場所には帰りたくないんです。」
三郎は少し黙った後、静かに答えた。
「実は私もです。兄と喧嘩して家を出てきた以上、もう戻るつもりはありません。」
ミツも驚いて三郎を見たあと小さく頷き、目を伏せた。
そして、ミツは意を決したように顔を上げて三郎を見つめた。
「それなら…私たち、このお寺で暮らしていけたら…」
三郎は大きく息を吸い込み、静かに力強く言った。
「ここで暮らしましょう。この寺を守りながら、働いて未来を作るんです。お坊さまは必ず許してくださいます。私は夢で見たのです。お坊さまが帰ってこられたら、きっと私たちに新しい道を示してくださるはずです。」
ミツはその言葉に微笑みながら頷いた。
「お坊さまがきっと私たちを導いてくださいますね。」
二人は静かに見つめ合った。互いの目の中に宿る確かな決意を感じた瞬間だった。
ふたりはその日から寺での生活を共にしながら、新たな道を歩み始めた。ふたりの心は、少しの不安と、砂金のように輝く希望に満ちていた。
ふたりの新たな生活が始まりました。
ふたりのささやかな夢が、花巻の、南部藩の、日本の、オランダの、世界の、平和で幸せな夢につながっていきます。