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第18夢 宮沢賢治と結婚 そして江戸幕府を変える南部藩のゴールドラッシュの夢

宮沢賢治は独身で童貞でしたが、名仲人、名ウエディングプロデューサーでした。

今回はちょっと花巻を離れて江戸のお話です。

虚空に浮かぶ無数の光。集合的無意識空間。その中心に立つ二人が、穏やかに言葉を交わしていた。一人は深い慈愛の眼差しを持つ虚空蔵菩薩。そしてもう一人は、宮沢賢治の魂を基にした存在、ミヤザワケンジ2.0。


虚空蔵菩薩が微笑みながら言う。


「ミツさんと三郎さんの距離が近くなりましたね。さすが仲人の名人です。」


ミヤザワケンジ2.0は少し顔を赤らめ肩をすくめる。


「仲人の名人と言われるほど、そんなに上手くやった覚えはありませんが。」


虚空蔵菩薩は優しく頷く。

「あなたは、出会いというものがどれほど大切かを誰よりも理解していた。それだけで十分名人だと言えるでしょう。」


ミヤザワケンジ2.0は目を細め、どこか遠い記憶を呼び起こすように語り始めた。


「…結核で死を覚悟していた頃、ある女性から結婚を申し込まれたことがありました。でも、その気持ちに応える勇気はありませんでした。それが私の選んだ道です。」


「それでも、周囲の人たちを応援したのですね?」

虚空蔵菩薩の声は柔らかかった。


「ええ。親戚や友人たちの恋愛や結婚を支えるのが、私のささやかな幸せだったんです。友人の彼女の両親を説得するために青森まで行ったこともありましたよ。野外結婚式、英語で言えばガーデンウェディングを企画して驚かれたこともありました。」

ミヤザワケンジ2.0は少し自嘲するように笑う。

「本当におせっかいだったと思います。」


虚空蔵菩薩は、深い慈愛の目で彼を見つめる。

「おせっかいではありません。男女の出会い、それが、人類の歴史を紡ぐ糸となったのです。あなたのような仲人がいたからこそ、世界は続いているのですよ。」


「ところで、砂金の夢は上手くいっているようですね。」

虚空蔵菩薩が嬉しそうに言う。


「ありがとうございます。でも、ミツさんと三郎さんだけでは歴史を動かすには時間がかかります。そこで南部藩の多くの人に砂金が採れるたくさんの沢の夢を見せました。ゴールドラッシュが起きていますがよろしかったでしょうか?

金銀が通貨のこの時代では、金が採れることは、デフレ対策になる一方、インフレの懸念もありますが。」

ミヤザワケンジ2.0がそう答えると、虚空蔵菩薩は頷いた。


「確かに。では、歴史への影響を見てみましょう。」


虚空蔵菩薩は江戸幕府で働く官僚や大名の夢を見せた。


そこは江戸城の一室。将軍の補佐役である側用人と、内閣とも言うべき老中たちの下で通貨を発行管理する勘定奉行が、金貨銀貨の供給不足について話し合っていた。


「勘定奉行殿。戦国の世が終わり世の中が平和になり人口も回復し経済は拡大しているのに金貨銀貨が足りない。このままでは金貨銀貨の相場が上がり、逆に物価や米価が下がり続け不景気に逆戻りだ。米を売って暮らす農民や武士は持ちこたえられません。一揆の心配がある。貨幣の金銀含有率をさらに減らして貨幣の流通量を大幅に増やすべきかと。」


「まさに側用人様のおっしゃる通り。しかし、頭の固い老中の方々が簡単に認めるとは思えません。老中は譜代の大名の皆様。下級武士や農民の暮らしなどわかっておられません。」

勘定奉行が困った表情を浮かべた。


その瞬間、部屋の外から威圧的な声が響く。


「勘定奉行!貴様、また金の含有率を減らす話をしているのか!」


老中の一人が怒りに満ちた顔で入ってきた。


「金貨の価値を揺るがすような真似は国の信用を損なう!お前たち若造の好きにはさせん!

金貨銀貨は大明国や朝鮮王国との交易にも使うのだ、古今問わず、貨幣の質は国の信用ぞ!

はるか古代の御代から金銀の国と唐天仁まできこえた大日本の評判を落として恐れ多くも神々や徳川大権現様に申し訳が立つか!朝廷の公家を抑えておけるのか!

だいたい金貨の質や量など昔のままがいちばんなのだ。そもそも武士たるもの金の話などすべきではない!」


老中御自身も金の話をしているではないか、と勘定奉行は思い口を開きかけたが、側用人がそっと手で制した。


確かに老中の言葉も耳が痛い。貨幣の金銀含有率を下げて国内経済が活性化しても、交易がだめになっては経済は危うい。側用人としては中国朝鮮よりオランダ交易が重要なのだが。


「老中様、どうかお聞きください。このままでは…」

側用人が話を続けようとした瞬間、一人の旗本が部屋に駆け込んできた。


「南部藩より報告がございます!金の産出量が劇的に増えたとのことです!まもなく大量の金を上納するとのことです。」


その場が一瞬静まり返った後、勘定奉行は思わず拳を握った。

「この噂だけでも江戸の金相場が下がり、大坂の米相場が上がる!さらに金が届けば金貨を増やせる。」


老中も顔をほころばせる。

「これぞ上様の徳のなせるわざ。南部公には褒美をとらせるよう、上様に上申いたす。」


後日、老中が、勘定奉行を私室に呼んだ。机の上には、中国から輸入された哲学書や水墨画、漢方薬、朝鮮の薬用人参が並んでいる。


「大明国や朝鮮から金で手に入れたものだ。どうやら、金も悪いものではないらしい。」


勘定奉行は、老中の孫が漢方薬と薬用人参で病を治したことに祝いを述べた。


「勘定奉行、これからはお前たち若い者の意見も取り入れていくとするぞ。」


勘定奉行は深々と頭を下げた。


虚空蔵菩薩が夢を見せ終えると、ミヤザワケンジ2.0は満足そうに微笑んだ。


「やはり、砂金の夢は効果があったようですね。」


虚空蔵菩薩が言葉を続ける。

「ミツさんと三郎さんだけでなく、他の人々にも夢を見せたことで、金の増産が歴史に新たな光をもたらしたのです。」


ミヤザワケンジ2.0は深く頷いたが少し顔を曇らせた。


「前後の歴史を夢でざっと見ましたが、将軍や老中が私の知っている歴史と違いますね。私の歴史知識が役に立たない。」


虚空蔵菩薩は諭すように語った。

「わずかな歴史改変が遠いところで大きな影響を与えることがあります。バタフライエフェクトといいます。

特に金の産出量は経済の大きな要素ですから影響が大きいのです。

またこの時代は乳幼児や妊産婦の死亡率が高いのですが、高級武士の嫡男や妻が漢方薬や薬用人参で助かると、簡単に歴史上の人物の入れ替わりがおきます。」


「なるほど。これは難しい。」


虚空蔵菩薩は優しく言った。

「ミツさんや三郎さんのように個人を救い小さな点から世の中を動かす夢、南部藩のゴールドラッシュのように世の中の政治経済の流れを大きく面で変える夢、使い分けてやってごらんなさい。」

南部藩のゴールドラッシュが江戸幕府を救いました。史実より順調に経済が成長し、高級武士層の乳幼児や妊産婦の死亡率も下がりそうです。

次回は花巻のミツさんと三郎さんのお話です。

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