第14夢 農家の三女ミツと鍛冶屋の三男三郎の出会いの夢
花巻の村はずれの、外れ寺に着いた、農家の三女ミツ。
そこには、鍛冶屋の三男、憧れの人、三郎が待っていました。
外れ寺にたどり着いたミツは、息を整えながら境内を見回した。
静まり返った寺は、まるでそこに誰もいないかのようにひっそりとしている。
「お坊さま…いらっしゃいますか?」
声をかけても返事はない。
肩を落としたミツに、後ろから穏やかな声がかかった。
「お坊さまは、今日は急な用でご不在だそうですよ。」
振り返ると、鍛冶屋の三男、三郎が立っていた。笑顔でミツを見ている。
ミツの胸が一瞬高鳴る。村人に親切で腕の良い鍛冶屋として評判の三郎。父と鍛冶屋に行き見かけたことはあるが、三郎と直接話をするのは初めてだった。
「あなたは、農家の娘の…ミツさんでしたね?」
三郎がそう言うと、ミツは驚きのあまり目を見開いた。
「私のことをご存じなんですか?」
「ええ、お坊さまがミツさんが来るとおっしゃいました。あと、以前あなたの父上が草刈り鎌を注文してくれましたよね。」
三郎の言葉を聞き、ミツの頬が少し赤くなる。草刈り鎌は、彼女にとって日々の仕事を支えてくれる大切な道具だった。それが目の前の三郎の手で作られたことを思うと、彼への憧れがさらに強くなる。
「…そうです。いつも使わせてもらっています。あの鎌、とても切れ味が良くて、本当に助かっています。それに、この前なんか大きな石に当たったらしなるようによけて、傷ひとつつかなかったんです!驚きました。」
「そうですか。それは嬉しいです。道具を作る者として、これ以上の喜びはありません。」
三郎は優しい笑顔を見せた。その笑顔に、ミツは少し心が温かくなるのを感じた。
「せっかく来たのですから、寺の掃除でもして帰りませんか?」
三郎が提案すると、ミツは喜んで、頷いた。
「はい、お坊さまが戻られたときに喜んでくださるかもしれませんね。」
寺の掃除は、二人にとって意外と楽しい作業だった。庭の落ち葉を集め、土間を掃き清め、本堂の床を雑巾がけするうちに、ミツは少しずつ緊張がほぐれていった。
「綺麗になりましたね。三郎さま。」
「そうですね。お坊さまもきっとお喜びになるでしょう。」
三郎はにっこりと微笑み、鼻歌を歌いながら手を動かした。
「三郎さまって、いつも明るい方なんですね。」
ミツがそう言うと、三郎は少し照れくさそうに頭をかいた。
「そう見えますか?でも、実は私にもいろいろありますよ。今日だって、家を飛び出してきたばかりなんです。」
「家を飛び出した…?」
「ええ。兄と喧嘩をしてしまって。本のことで意見が合わなくて…。いや、こんな話は面白くありませんね。」
ミツはそれ以上は聞かなかった。ただ、三郎が少し寂しそうな表情を浮かべたのが印象に残った。自分も家を飛び出そうか、そんな思いも脳裏をかすめた。
掃除が終わると、ミツは包んでいた握り飯を取り出した。
「これ、お坊さまに差し上げようと思って握ってきたんです。でも、いらっしゃらないので…もしよろしければ、三郎さんも一緒に召し上がりませんか?」
三郎は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに穏やかに笑った。
「それは嬉しいお誘いですね。ただ、実はお坊さまからも頼まれているんです。」
「お坊さまから…ですか?」
三郎は話し始めた。
「お坊さまは昨日、急な用で出かける前に言っていました。『ミツさんが握り飯を持ってくるだろうから、私が不在のときに、それを二人で分け合って食べてください』と。」
ミツは驚きの表情を浮かべた。
「お坊さまが、そんなことまで。」
二人は境内に腰を下ろし、握り飯を頬張った。ご飯の香りと、麦の食感、少し塩味の効いた素朴な味が、掃除でかいた汗を心地よく癒してくれた。
「ミツさん、この握り飯、とても美味しいですね。」
「本当ですか?私、急いで握ったので、ちゃんとできているか心配でした。」
「ええ、とても美味しい。こういう味が一番ですよ。」
三郎の言葉に、ミツは少し照れながらも嬉しそうに微笑んだ。
握り飯を食べながら、二人は少しずつ言葉を交わした。お坊さまの不在がもたらした時間に、二人の間に小さな絆が生まれたようだった。
ふたりの出会いが世界をどのように平和に変えていくのでしょうか。
次回はふたりで砂金探しに出かけます。
ふたりの距離がぐっと近づくようです。