第13夢 燃やされたオランダの技術書が三郎の心に火をつける夢
外れ寺で心あたたまる夢を見た鍛冶屋の三男三郎を悲劇が襲います。
農民の三女ミツが外れ寺をめざして歩いていたころ、やはり寺に向かう別の道を歩いている若い男がいた。村の鍛冶屋の三男、三郎である。
三郎は山道を歩きながら、怒りと悲しみに震えていた。
「兄貴の馬鹿野郎…!」
父が必死で長崎から持ち帰ったオランダの技術書は、もうこの世にはないのだ。
今朝、次兄次郎との激しい口論の末、蔵にあったその貴重な書物を次兄が炉に放り込んで燃やしてしまったのだ。
思い出すのもいやなのに、今朝の出来事は何度も三郎の頭の中をぐるぐる回る。
あのとき兄は恐怖に震えながら顔を真っ青にして叫んだ。
「お前はオランダの本を読んだだろう。こんな異国の書を蔵に置いておくだけでも危ない!」
三郎は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「父上が藩の役人と長崎へ行き、苦労して手に入れたものだぞ!藩の役人だって承知している。どうして分からないんだ!オランダは徳川さま公認の交易先だ!」
兄は三郎から目をそらしながら低い声で言う。
「父上の時代は終わったんだ。新しい物をつくる時代は終わった。徳川さまの締め付けが厳しくなっている。一攫千金、立身出世の、豊臣さまの時代じゃない。異国のものは危険だ。藩の役人なんかあてになるものか。目立ってはだめだ。この村で鍛冶屋はウチだけだ。村人から金を絞りとれば暮らしていける。目立たない仕事だけしていればいい。」
三郎は吐き捨てるように言った。
「父上の志を継ぐ気がないのか!兄貴には鍛冶屋としての誇りも向上心もないのか!」
兄は黙っていた。そして次の瞬間、炉の火に本を投げ入れた。
三郎は叫びながら手を伸ばしたが間に合わなかった。炎に巻かれるその本を見つめるしかなかった。文字も図も、父が残してくれた知恵も、すべてが灰になってしまったのだ。
「父上が生きていたら…こんなことにはならなかったのに…」
家を飛び出してきた三郎は、怒りが収まらぬまま山道を進む。目指すのは、昨日訪れた外れ寺だ。
「兄貴なんかには分からない。父上の遺志を継ぐのは俺の役目だ。」
三郎は拳を握りしめ、悔しさを噛みしめた。父が大切にしていたあの本はもう戻らない。それでも、自分にはやるべきことがある。
そうだ、お坊さまの砂金の話が本当なら、それを掘り当ててみせる。金持ちになったら家を出て長崎に留学するのもいいな。父上と長崎に行ったお役人に相談してみようか。
寺が近づくにつれ、あの優しいお坊さまの言葉を思いだし、少しずつ足が軽くなっていく。
「ミツさんという娘さんも来ているだろうか。」
小さく呟きながら、三郎は歩みを進めた。その目には、まだ消えない悔しさと、わずかな希望が宿っていた。
鍛冶屋の三男三郎は、父の大切な本を燃やされた悲劇から立ち直り、農家の三女ミツと出会うことができるでしょうか?




