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第118夢 アムステルダムの根回しの夢

オランダ東インド会社の重役があつまる「十七人会」が近づき、少年の父は、戦争を止めるために他の重役を説得しています。

今日も、ぼくは退屈だ。


広い居間で、薪の燃えるぱちぱちという音だけが響いている。お父さまの姿は、やっぱり今日もない。


今までは夕食はいっしょに食べていたのに、最近は夕食のときだって帰ってこないし、朝にはまだ暗いうちに、黒い外套を着てこっそり出て行ってしまう。


今日もお姉さまは、居間で日本の鏡を手に取り、黒い漆のクシでゆっくりと美しい金髪をとかしている。さらさらと髪が流れる音がするようで、部屋の空気までやさしくなるようだ。


「お父様はね、ネマワシに行っていらっしゃるのよ。」


「ネマワシ?」ぼくは聞き返す。「それって日本語?」


お姉さまはくすりと笑ってうなずいた。


「そう。元は木を植える前に根っこを整える意味だけど、今は準備とか説得とか、そんな意味にも使うの。」


「そうなんだ。」


「お父様は今、東インド会社の十七人会で勝つために、商人たちと会食をして説得してまわっているのよ。」


「……勝てそうなの?」


ぼくは思わず聞いてしまった。だって、もし陸軍派が勝ったら、ぼくだって大きくなったら、ジャングルで銃を持って戦わなきゃいけなくなるかもしれない。それは、いやだ。ぼくはお父さまみたいに、出島で日本の人たちと美しい品物や便利な品物を売り買いする仕事がしたいんだ。


お姉さまはゆっくり鏡を置くと、やさしく微笑んだ。


「そうならないように、お父様はがんばっていらっしゃるのよ。」


そう言われても、やっぱり心配だった。

すると、お姉さまはつづけた。


「お母様が言ってたわ。交易派のお父様が陸軍派に勝つには、海軍派と土木派と日和見派の重役たちを味方につけなきゃならないんだって。」


お姉さまはぼくの頭を軽くなでた。


ぼくは考えた。海軍派っていうのは、きっと軍艦や大砲を海軍に売っている商人だ。交易派だって、船がたくさん必要だ。なら、お父さまが海軍派の商人たちに銀貨を渡して船をいっぱい注文すれば、海軍派の人たちは味方になってくれるかもしれない。


土木派は名前のとおり、土木業者の親方たちだろう。先生が言ってた。「神は世界をお作りになったが、我が国は土木業者が作った。」って。


堤防も港も、水の上に浮かぶ町も、ぜんぶ土木の力でできてる。たぶん、すごうでの職人のおじさんたちがたくさんいて、どんな海でも陸にしちゃうんだ。


お父さまは、そういう職人のおじさんたちにも、お酒を飲ませて説得しているのかもしれない。鏡職人やガラス職人のおじさんにも、お父さまは、よくお酒を飲ませて喜ばれていた。酒って、そんなにすごい道具なんだろうか。


日和見派っていうのは、なんだろう。日和というのは天気のことかな。今日はピクニック日和だ、なんていうからな。そうか、天気を見て出かけるかどうか決める人みたいに、どの派の味方をするか様子をみている商人たちのことだな。


日和見派の重役には、おいしい儲け話をしたらどうだろう。もっと話を早くするには銀貨を渡したらどうかな。日本との交易で銀は余るほどあるんだし。


そんなことをお姉さまに話してみたら、ふわりと笑って、こう言ってくれた。


「あら、あなた、やっぱりお父様の息子ね。商人の才能ありそうだわ。」


そう言われたら、ちょっとだけ胸が熱くなった。


……お父さまみたいになれるだろうか。

お父さまみたいに、戦争をしないで、勝つ方法を見つけられるだろうか。


窓の外を見れば、運河が月の光できらきら光っていた。

あの向こうに、海があって、さらにそのむこう、ぼくの夢の国・日本につながっているんだ、と思ってじっと見つめていた。

少年の父は戦争を止められるのでしょうか?

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