第116話 帰ってきたオランダ艦隊の夢
オランダ艦隊の凱旋にオランダ兵たちは大喜び。
しかし、なにか様子がおかしいようです。
大尉もサムライも日本人傭兵もオランダ兵も勝利の感激で徹夜で飲み続けた。朝が近づくまで、その宴は続いた。
さすがにみな飲み疲れ、少しうとうとと、しはじめたころ。夜が白みはじめ、水平線に帆影が見えた。まず一本、ついでまた一本。やがて朝靄の中からオランダ艦隊がゆっくりと現れた。提督の旗艦を先頭に、戦列艦、武装輸送船が堂々たる姿で砂浜に向かってくる。
「艦隊だ!帰ってきたぞ!」
大尉の声に、浜辺の兵たちが一斉に歓声を上げた。サムライも思わず「おお…」と感嘆の声をもらす。勝利の報が確信に変わり、寝ぼけていた兵士の顔にも笑みが浮かんだ。
入り江の入り口付近で各艦は錨をおろした。小舟が次々と艦から下ろされ、水兵たちが漕ぎ出す。提督らを乗せた小舟の列はまっすぐ砂浜に向かっていた。
「整列!敬礼!」大尉が号令をかける。
さっきまで呑んだくれたり、居眠りをしていたオランダ兵たちは別人のように背すじをのばし、槍や銃を手に整列し、敬礼の姿勢をとった。
日本人傭兵たちも一糸乱れず並び、サムライを先頭に深く頭を下げた。
潮風に混じって、小舟のオールを漕ぐ水兵たちの勝利の歌が静かに浜辺に満ち始めていた。
オランダ兵も日本人傭兵も勝利の感激に酔いしれていた。
ところが、砂浜に整列していたオランダ兵たちの列が、徐々にざわめきはじめた。誰かが、ぽつりと呟く。
「……あれ、歌が変わってやがる」
耳を澄ませば、確かに水兵たちの歌声が明るい凱旋の調子から、湿った陰気な旋律に変わっていた。それは、戦場で倒れた仲間を弔う、オランダ古来の葬送の歌だった。
「なんだ、棺か……?」
目を凝らせば、木の棺を載せた小舟がいくつも見える。ひとつ、ふたつ、いや、
「十、いや、二十は下らねえな…」
兵たちの間に、ざわざわと不穏な空気が走る。
「提督の野郎、上陸戦をやりやがったな」
「陸の戦いは、俺たち陸兵にまかせておきゃいいのによ……」
「大尉どのや俺たちの手柄に嫉妬したんじゃねえのか?」
そのささやきは、波音とともに少しずつ広がりつつあった。
大尉も思った。あれだけの大爆発を艦砲射撃で起こしたのだ。敵の火薬庫が吹っ飛んだのだろう。泊地をやられたら降伏するのが、このスパイス戦争の常識だ。朝になって敵が降伏するまで待てば良かったのに、功をあせって上陸戦、しかも夜戦とは愚かな。イギリス兵も必死に抵抗したのか。窮鼠猫を噛むだな。
とはいえ、そんなことを兵の前で口にするわけにはいかない。
大尉は無言のまま一歩前に出た。そして低く、静かに、しかし鋭い声で叱った。
「不敬だぞ。口をつつしめ。」
ピシリと空気が張りつめる。兵たちは一瞬たじろぎ、すぐに無言で背すじを正した。
サムライがちらりと横目で大尉を見て、小さくうなずいた。敬意と信頼のこもった眼差しだった。
小舟の列はまもなく、砂浜に着き、前祝いの宴はむなしく片付けられ、亡くなった水兵たちの追悼式が静かに行われた。
東南アジアの小さな島のスパイスをめぐるオランダとイギリスの戦争は、オランダの苦い勝利で幕を閉じた。
実は、史実ではこの時代の東南アジアのオランダ東インド会社軍部隊は海陸両用である。船の乗員が水兵と陸戦兵と商館員も兼ねていて、陸海軍の内部抗争などはのちの時代のことである。
しかし、この世界では、日本との交易による莫大な富と、株式会社組織の集金力で、史実よりオランダ東インド会社の組織が肥大化しつつある。肥大化した会社の陸軍部門、海軍部門、そして交易部門などの不協和音が高まりつつあるのだった。
そして、その不協和音はオランダ本国の東インド会社取締役会でも火を吹くのだった。
オランダ本国の東インド会社内部でも深刻な対立が深まっていました。
日本とオランダを中心に世界をカネで平和にするミヤザワケンジ2.0の計画にどのような影響があるのでしょうか。




