第114夢 地図を持ち帰れ、の夢
オランダ商人出身の予備大尉は、東南アジアの小さな島でイギリス軍の小部隊と交戦。イギリスの泊地が記された地図を発見しました。これをオランダ東インド会社軍の艦隊に持ち帰れば、この島の戦争を勝利で終わらせることができそうです。
大尉たちの部隊は帰還を急いだ。
イギリスがこの島に設置した泊地の位置が記されたこの地図を艦隊に持ち帰れば、この島の戦争に勝てる。
しかし、南洋の太陽は無慈悲だった。大尉は汗をぬぐう暇もなく、草木が鬱蒼と生い茂る獣道を先導した。
濃密な湿気が肺を圧迫し、地面を這うような熱気が足元から体力を奪っていく。
大尉は部下たちに短く声をかけ、小休止の合図を送る。サムライは無言で頷き、木陰で刀を拭う。日本人傭兵とオランダ兵たちは水筒を回し飲みしながら肩で息をしている。
大尉はオランダ語と上手な日本語で部下たちを励ます。ナガサキやヤマダハマの商館員の経験がこんなところで役立つとは思わなかった。
「みなご苦労。もう少しの辛抱だ。今日の大戦果を提督に報告すれば御褒美が出るぞ。」
「銀貨はもらえますか?」
オランダ兵が尋ねる。
「もちろんだ。」
「酒はもらえますか?」
日本人傭兵が尋ねる。
「もちろんだ。大宴会を開くぞ。いつもの腐ったような薄い安ワインにカビたような干し魚じゃない。提督閣下秘蔵の十年ものの泡盛と紹興酒に、干しアワビ、コショウのたっぷりきいたハムも出すように頼んでやるからな!」
大尉がオランダ語と上手な日本語で答えると部下たちからどっと歓声があがった。
「よし、もう少しで泊地だ。がんばって帰るぞ!」
「おお!」
大尉たちは、また歩を進めた。
あの地図こそが戦局を変える鍵だ。提督に届ければ、艦砲をもってイギリスの泊地を叩ける。それはこの泥まみれの戦いに決着をつけることになるだろう。
そして、夕方。オレンジ色の光がジャングルの木々を斜めに貫いたころ、一行はようやく帰還を果たす。
目の前に現れたのは、高い崖に囲まれた目立たぬ入り江。そこにオランダ東インド会社軍の小さな泊地があった。今月になり地元の王国が裏切ったため小さな入り江に泊地を移動していたのだ。
安堵と疲労が押し寄せる。しかし、一刻も早く提督に地図を届けなくては。
「よくやった、皆の者。」
大尉は、汗と泥にまみれたサムライ、傭兵、オランダ兵たちを見渡し、低くしかし力強いオランダ語と日本語で言った。
「本日の戦果、見事であった。お主らの奮戦、そして全員が無事帰還したこと、誇りに思う。」
ここまで威厳ある表情で話したあと、大尉は笑顔で言った。
「いったん解散し、大宴会まで休憩しろ。解散!」
サムライは無言で一礼し、日本人傭兵たちは静かに頭を下げ、オランダ兵たちは敬礼した。彼らの表情には、疲労と同時に、確かな自信と達成感があった。
大尉はそのまま海岸に向かい、小舟に乗り込む。オールを握る水夫が力強く漕ぎ出すと、泊地に浮かぶ艦隊旗艦が近づいてきた。帆を張らずとも、その堂々たる船影は、南洋の支配者としての威厳を漂わせていた。
「提督閣下、戻りました。」
旗艦の艦上に上がった大尉は、すぐさま手にしていた地図を取り出し、提督に差し出した。
提督は目を見開き、地図を素早く広げた。そこには、イギリス側の泊地と物資の集積所が詳細に記されていた。
「これは……見事だ!」
提督は声を上げて笑った。
「今夜にも艦砲射撃で、やつらの泊地を吹っ飛ばしてやる。」
「ぜひ、お願いします。これでこの泥沼の戦いを終わらせられます。」
「おお、大尉、そなたの手柄だ。泊地の主計兵に言って酒蔵を開け。陸兵たちと勝利の前祝いをしながら待っているがいい。」
「はっ。御武運をお祈りいたします。」
「泊地を吹っ飛ばして、奴らの補給線を断てば、残るイギリス兵は降伏するしかあるまい。この島の王も再び我らとの同盟を選ぶだろう。貴公の働き、実に見事!」
「罠の可能性は、ないでしょうか?」
大尉は一歩前に出て、慎重に問いかけた。
提督は片眉を上げ、すぐに豪快に笑った。
「罠であろうと構わぬ! 奴らが海賊船を潜ませていようと、この艦隊を沈めることなどできはせぬ。」
「頼もしい限りであります。」
「泊地に隠して、ちょこまかと逃げ回っていた海賊船を持ち出して海戦を挑んでくるなら、むしろ望むところだ。我らが誇る火力で、打ち破るまでよ!」
夕闇のなか、出航準備の鐘が鳴り響いた。ジャングルの戦いが、今度は海の決戦へと舞台を移そうとしていた。
大尉は旗艦を降り、小舟で泊地に戻った。
砂浜ではオランダ兵と日本人傭兵たちが、待ちきれずに、もう宴会の準備を始めているのが見えた。
次回は大宴会です。




