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第110話 みちのく山田浜出島開港の夢

舞台は江戸城にうつります。

また老中が乗り込んできます。

江戸城の一室には、側用人、勘定奉行、そして外国奉行といった幕府の高官たちがひそかに集まり、長崎奉行から届いた報告書を囲んでいた。


「南部藩山田浜のオランダ船の漂着を機に、長崎のオランダ商館より、山田浜に商館設置の願い出あり。」


外国奉行が文を読み上げると、側用人はうなずき、口を開く。


「ふむ、オランダとの交易がさらに盛んになるのは、我々改革派にとっては大いなる好機。南部藩も多額の金銀を上納してきた。オランダ人と南部公の本気度は見て取れる」


勘定奉行が頷く。「南部藩の賢治宗の技術力そして薬は、オランダ側でも話題だとか。輸出すれば、そうとう幕府の財政にも潤いをもたらすはずですな」


「ですが、」と外国奉行は慎重な表情になる。「保守派の老中の方々がどう動くかが問題ですな。あの方々の西洋ぎらいは筋金入りですから。」


そのとき、襖が勢いよく開かれ、老中が乗り込んできた。


「わしの夢に、あのお方が現れたのだ。おそれ多くも大権現様、徳川家康公がな」


場に一瞬、緊張が走る。交易をじゃましに来たのか、老中は。


老中はゆっくりと側用人たちを見回し、低く語った。


「西洋の病と、誤った信仰を我が国に持ち込ませるな、と大権現様は仰せであった。特にスペイン、ポルトガルのキリシタンは断じて許してはならぬ。オランダとの交易は許すが、それも出島の中に限る」


「出島、でございますか」側用人が問い返す。


「そうだ。夷をもって夷を制す。長崎の商館を人工島の出島に移すのだ。それだけではない、神奈川浦賀にも、みちのく南部藩山田浜にも出島を築け」


「浦賀にも、でございますか?」


「大権現様の御代には浦賀が交易の港であった。江戸に近く、目も届きやすい。西洋人を集めて監視するには浦賀が便利だ。」


「南部藩の山田浜はいかなるわけで?」


「北方もまた危うい。オランダ人をみちのく山田浜に置き、蝦夷の海を守らせよ。」


「オランダ人に海防を依頼するので?」


「依頼ではない。命令だ。我々は大船をつくれぬ。オランダ水軍の船をこき使ってやるのだ。夷をもって夷を制するのだ。」


老中はそう言うと、目を細めてにやりと笑った。


その笑みに、勘定奉行と側用人もわずかに口角を上げた。


水軍ではなくオランダ東インド会社の武装商船だが老中どのは細かいことはおわかりにならぬようだ。


オランダはスペイン・ポルトガルと独立戦争で、イギリスとは東南アジアの香辛料をめぐっていわゆるスパイス戦争で、激しく戦っている。出島を与えれば、頼まなくても海防を固めるだろう。


出島で海防という建前で、西洋の知識も薬も交易品ももっと取り引きできる。これは渡りに船……いや、渡りに出島だな


「では、長崎奉行と南部藩に通達を」と外国奉行が言いかけたとき、


老中は一歩前に出て、重々しく言った。


「南部公には、わしが直々に書状を書く。大権現様の御意を継ぐは我らの務めぞ。オランダ人の相手はそなたらがいたせ。」


その声には威厳と自信が満ちていたが、その裏には、時代の風を意外に敏感に感じ取る老獪な政治家としての顔が隠れていた。


江戸城の奥、静かな庭を渡る風が、どこか新しい時代の始まりを告げているようであった。





集合的無意識世界、淡い光と静寂に包まれた空間で、ミヤザワケンジ2.0と虚空蔵菩薩が語り合っていた。


「つまり、あなたがあの老中に夢を見せたのですね」


「はい。保守派の老中には、西洋人を出島に押し込めるという構図が最も安心できる未来像でした。そして、オランダ人に他の西洋人を監視させるという案であれば、保守派も納得しやすかったのです」


ミヤザワケンジ2.0は静かに語りながら、遠くの時代の流れを見つめていた。


「ですが、その出島の中で交易が盛んになれば、改革派の利益にもつながります。思惑の異なる者たちが、同じ方向を向くように夢を設計しました」


虚空蔵菩薩はゆっくりと頷き、優しく言葉を返す。


「なるほど、よく考えられていますね。たしかに、徳川家康公の時代には神奈川浦賀も交易港でありました。記憶の中にその事実があれば、もしも本格的な鎖国が進んでも、関東の交易拠点は完全に道が閉ざされることはありません」


「はい。そして岩手の山田浜にオランダの拠点があれば、のちの時代、北方から接近するロシアへの牽制にもなります」


虚空蔵菩薩は微笑みながら、やわらかい声で言った。


「あなたは詩人でありながら、まるで戦略家のようでもありますね。未来のために、よくここまで編み上げられました。感心いたしましたよ、ケンジさん」


ミヤザワケンジ2.0は少し照れたように笑い、頭をかいた。


「私は生前宮沢賢治だったころ、シベリア出兵でロシアと戦うために家族の反対を押しきって学生徴兵猶予の権利を返上して徴兵検査を受けたことがあります。もし検査に合格していたらシベリアでロシア赤軍と戦っていたでしょう。検査に落ちてしまいましたが。」


「ふむ。ロシアに対する私怨ではないでしょうね。」


「とんでもない。私はロシアの文学や文化を人一倍愛しています。そのロシアを地獄にした皇帝や政治家や革命家が許せないのです。」


「ふむ。そしてロシアは2045年の核戦争の当事者。その勢力を今から削いでおくことは、悲劇を防ぐうえで効果がありますね。わかりました。このまま進めてください。」


「ありがとうございます。」


霧の向こうから、朝日が差し込むような光がふたりを包んでいた。


みちのく南部藩山田浜の開港は日本とオランダにどのような発展をもたらすのでしょうか?

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