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第109夢 金銀島はここにあり、の夢

無事、友好の宴が開かれました。

山田浜の夜は、これまでにない熱気に包まれていた。


肝煎(村長)の屋敷は提灯と篝火とアセチレンランプで照らされ、真昼のような明るさ、まるで都のようなにぎわいを見せていた。囲炉裏の周りには刺身、焼き魚、煮物、山の幸、青菜のおひたし、酒。湯気と香りが立ちこめる中、異国の客人たちは赤ら顔で歓声を上げていた。


「日本の酒はうまい!」


「この焼き魚、骨まで食べられるぞ!」


盛岡からの役人たちも交じり、まるで親戚の集まりのように和気あいあいとした空気が流れていた。

肝煎が庭に置かれた木材の束を指さして言った。


「船の修理に必要な木材、ここにある以外にも山のようにすでに準備しておりますぞ。南部の山の木は強くて丈夫です。」


それに対し、船長は深く礼を述べた。


「我々の船を助けてくださり、本当に感謝しています。ここまで親切にしていただけるとは、本当にありがとう。」


その言葉を翻訳した三郎が酒を少し飲み、笑顔で尋ねた。


「船の修理が終わったら、また太平洋へ? 伝説の金銀島を探すのですか?」


船長はひとしきり笑ったあと、杯を置いて答えた。


「その話ですが……どうやら、金銀島はすでに見つかっていたようです」


その言葉に、一同が驚いたように船長を見つめた。


「私たちは、太平洋のどこかに眠る黄金の島を探しに旅立ちました。でも、この日本……いや、ここ山田浜でいただいたものを見て、思ったのです。豊かな金銀、美しい自然、そしてなにより、心ある人々と、驚くような薬やアセチレンランプ。これこそ、伝説に語られてきた“黄金郷”ではないか、と」


船長は懐から、小さな陶器の壺に移しかえた薬を取り出した。三郎が渡した水飴状の薬だ。


「この薬はただの甘味ではなかった。咳が止まり、傷が癒え、皆の体調が明らかに良くなった。しかも、こんなに美味しくて安全な薬を、笑顔で分け与えてくださる。これこそが“金銀”でなくて、何でしょうか?」


三郎は目を丸くして笑った。


「もしそのようなものでよければ、いくらでも差し上げますよ。薬も、アセチレンランプも。そして金銀も少しで良ければ、手土産に差し上げましょう。」


その一言で、宴は一層の盛り上がりを見せた。盃が鳴り、歌が始まり、太鼓の音が夜空に響く。


異国の客人たちと地元の漁民、役人、僧侶、化学肥料職人、子どもたち。すべての人が笑い合い、語り合い、異なる言葉が交じり合う中に、不思議とひとつの調和が生まれていた。

その光景を見ながら、三郎はふと思った。


「こうして、人と人が繋がっていくのだな……。もしかすると、この海の向こうにも、同じように“心の金銀島”を探している人たちがいるのかもしれない」


三郎は誰かに見守られているような気がして振り向いた。

夜空には星が瞬き、波の音が静かに響いていた。

その夜、山田浜には確かに、異国と日本の未来を結ぶ風が吹いていた。




星々の間に漂うような、静かな意識の海。そこは集合的無意識の世界。

虚空蔵菩薩は月光のように輝きながら、にこやかにミヤザワケンジ2.0に語りかけた。


「今回の山田浜の出来事、うまくいきましたね。史実のブレスケンス号事件では、踏み絵を巡って信仰と政治が交錯し、混乱が生まれましたが……この世界では、穏やかな交流が実現しました」


ミヤザワケンジ2.0は深くうなずきながら答える。


「はい。踏み絵の場面もなく、互いに礼を尽くし、薬と技術で心が通じました。」


「史実のブレスケンス号事件では踏み絵をめぐって意外な混乱が生じましたね。」


「はい。プロテスタント教徒として血を血で洗う宗教戦争、いわゆる八十年戦争をカトリック教徒と戦っていたブレスケンス号のオランダ人乗組員は、幕府のカトリック弾圧に感激、踏み絵の習慣に驚き喜びすぎて事件を起こしてしまいました。」


「聖母マリア像を踏むだけでなく、唾を吐きかけた上に、ハンマーで破壊しようとまでしたのでしたね。偶像崇拝を憎むキリスト教プロテスタント教徒の純粋な信仰心が招いた混乱とはいえ、そんなことにならなくて良かった。」


「やはり、この世界では、本格的なキリシタン弾圧が始まる前に漂着したのが良かったのでしょう。」


「そうですね。そして何より、賢治宗の技術とまごころが、異国の人々の心を開いたと言えるでしょう。」


虚空蔵菩薩はゆっくりと目を閉じ、続ける。


「人の心に光をともすのは、力や恐れではなく、癒しと驚きです。あなたの導入した技術が、時代を越えて役立ちましたよ」


ミヤザワケンジ2.0は、どこか恥ずかしげに微笑んで答える。


「私が過去に手を加えたようでいて、結局はその時代の人々の善意が状況を動かしたのです。あの船長も三郎も、そして村人たちも、互いを理解しようと努めた。それがこの結果を呼んだのでしょう」


虚空蔵菩薩は穏やかに、


「そうですね。これがほんとうの“黄金郷”なのかもしれません」と言った。


二人は微笑み合い、夢の光の中へ溶けていった。


この友好が、この世界の「山田浜出島」につながります。

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