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モンスター退治

「おわっ……」

「大丈夫か!?」

「時雨くん!?」


 亡霊騎士を倒したことで気が抜けて尻餅をついてしまった。そのことで千虎と美月先輩が俺のそばに来た。


「大丈夫。少し気が抜けただけ」

「ほ、本当か? どこも怪我はしていないか?」

「大丈夫だよね……?」

「大丈夫、この通り」


 泣きそうになるくらいに心配してくる二人に大丈夫だと見せるように立ち上がる。


 魔力も思ったよりも残っている。魔法の二重使用は精神をすり減らすだけだったから魔力消費自体は多いわけではない。


 だから今すぐに行動しないといけない。


「それよりも周りにいるモンスターを倒さないと」

「あぁ、あれか」


 俺の近くに来た主人公くんが教室の外にいるモンスターを指差す。


「そうだよ。今は一体でも多くモンスターを倒そう」

「人を助けるためか?」

「それもあるけど一体でも多く倒した方がレベルが上がるからね。今はレベル上げが重要だ」

「……いいね、そういう答えは好きだ。一緒に行動するか?」

「後で落ち合おう。キミは一人の方が効率がいい」

「分かった。あの剣はもらってもいいか?」

「いいよ。でも魔石はもらう」


 主人公くんは頷いて剣をとって教室から出ていった。


「俺たちも行こう」


 ここからのレベル上げは重要になってくる。どれだけいいスタートダッシュをきれるかだからな。


「待て」


 千虎から待ったの声がかかった。


「なに?」

「時雨はこうなることが分かっているように思えた。この状況に動揺していない。それに今倒した敵も分かっていたかのようだった。……説明してくれるか?」


 あぁ、やっぱりこれは聞かれることだな。でもワンテンポ遅れていたら助けられない。


「悪いけど説明できない。……でも俺はキミたちの味方だ。それだけは信じてほしい」

「味方なのに説明できないのか?」

「まあまあいいじゃん! 時雨くんがあたしたちを助けてくれたのは違いないんだから!」

「それは分かっている。私は味方だから信用して話してほしいと思っているだけだ。怪しんでいるわけでも何でもない」

「それなら最初からそう話せっての! なにあの雰囲気!?」

「深刻な雰囲気なら話せると思ったんだが、これは話してくれそうにないようだ」

「ごめん」

「謝る必要はないさ。時雨には時雨の事情があるんだろうからな」

「ねぇ、この女には話せないと思うから後であたしに話してね」

「おい」


 ふぅ、良かった。これで信用されなかったらどうしようかと思った。


 でも雰囲気はいい感じだ。これで学校内のモンスターを片付けれる。


「話はあとだ。まずは学校内の片付けるよ」

「りょーかい!」

「任せておけ」

「千虎は拳だよね?」

「あぁ、私の武器はこの体だ」


 胸を張ればポヨンと千虎のお胸が揺れる。


「美月先輩はどうしますか?」

「あたしにはあのすっごい魔法があるから!」

「その魔法は通常時に使うのは禁止です」

「えっ!? どうして!?」

「美月先輩の魔法は俺の結界がないと自分自身すら焼き殺しますよ。まあ使い慣れたらできると思いますけど」

「……どうしてそんなことを知ってるの……?」

「秘密です」


 ここで言わないとかなりの頻度で一生残るやけどを負っているからな、美月先輩。


 一見すればそれを気にしていなさそうだけどふとした瞬間にそのやけどを見て落ち込んでいた。だからさすがに止めておく。


「むー……でもそれならモップとか?」

「俺が武器を貸しますよ。何がいいですか?」

「何がいいって言われても……使いやすい武器?」

「それなら短剣ですね」


 異空間から取り出したのは特別性の短剣。ワイバーンの牙から作った短剣だ。


「どこから出したんだ? これも秘密か?」

「周りに秘密にしてくれるのなら教えるよ」

「もちろん秘密にする」

「あたしも秘密にするから知りたーい」

「それなら。俺のスキルには異空間にアイテムを収納するスキルがあるんだ。それに色々と入れているんだ」

「あっ、午前中に買い物した物が消えてたのってそのスキルなんだ……」

「待て、午前中ならそれはおかしいぞ。今さっきステータスを付与されたばかりなんだぞ、私たちは」

「ん? ……あっ、そっか」


 鋭い人なら気付いてしまうよな。


「それも秘密です」

「……ウソではなく秘密なんだな」

「そうだよ。ウソは良くないから」


 あまりウソをつかないようにしているからな。秘密と言うしかない。まあそもそも秘密と言うことは信用している人にしか言わないけどね。


「そんなことよりも早くモンスターを倒しに行こう」

「……あぁ、分かった」

「この短剣でバッチリ倒すからね!」


 俺はただのありふれた短剣を異空間から取り出して俺たち三人は教室から出た。


 あちこちから人の悲鳴が聞こえてきておりモンスターがまだまだ出現している。ここで欲張ってLv10にはしたいところだ。


 まあステータスがどれくらい上がるのかは分からないけど知っておかないとな。


 初手で遭遇したのは五体のチンアント、全長なら成人男性ほどある巨大なアリだ。


「行ける?」


 二人にそう聞くまでもなく二人は駆けだし千虎はチンアントを殴り殺し、美月先輩は短剣で突き殺した。


 残りの三体は影の御手で頂いておくけど。


 この学校内で出てくるモンスターは全部で四種類。チンアント、ハイピジン、サイレンウルフ、ゴブリンの四種類だ。


 まあ最初だからどれも気を付けないといけないけど、厄介なのはサイレンウルフ。仲間を呼ばれるから。あとはハイピジンか。常人なら動きがとらえられない。


 まとめて来るチンアントも厄介だし人型のゴブリンも厄介だ。結局モンスターはどれも厄介な性質を持っている。でも俺がいれば全く問題ない。


「ちょー簡単なんだけど!」

「さっきの相手と比べれば大したことはないな」


 亡霊騎士と比べれば大抵のポップモンスターは雑魚だ。エリアボスを最初の時点で経験した人はやっぱり強くなる速度は違ってくるがそういうところなんだろうな。


「次行こう」


 ここを拠点にはしないが一夜を明かすためには使う。だからどれだけ早くモンスターを倒しきるかで休む時間が変わってくる。


「時雨、この学校にはどれくらいモンスターがいるんだ?」

「うわぁ、どこもかしこもモンスターだらけだ!」


 魔力によってモンスターはそこに生まれる。でも世界が終わる最初は人がいるところにモンスターが出現する。


 ステータスが付与された時に魔力があふれでているのかは分からないけどとりあえず人が多ければ多いほどモンスターも多くなる。


 そこから魔力がダンジョンから流れ出てダンジョンに近ければ近いほどモンスターも多くなるということになる。


「この学校にいる人数×10体くらいだよ」

「一人十殺がノルマというわけか。それをできる人がどれだけいるか」

「なに? おじけついてるわけ? それなら隠れてていいよ」

「は? 状況の確認をしていただけだ。それをできない頭をどうかと思うが」

「はぁ?」

「置いていきますよ」


 亡霊騎士を経験したのはいいけど微塵も緊張感がないのは子供だな。


 廊下のモンスターを倒しつつ違う教室の中を見ればチンアントに食い殺されている生徒たちの姿があった。


「うぷっ……!」

「ッ」


 その光景を見た美月先輩は吐きそうになり千虎は顔を歪めていた。


 まあ内蔵が散らかっているし顔を見れば目を見開いて息絶えている光景を見ればそんな顔になる。俺はもう慣れたけど。


 教室内のチンアントたちを影の御手で串刺しにして絶命させればより体内が見えてグロくなる。


「……彼らはどうする?」

「今はモンスターを倒すのが最優先だ。悪いけど死んでいるのなら後回しだ」

「……分かった」


 千虎とそんな会話をすれば美月先輩が俺の背中に顔をうずめてきた。


「大丈夫ですか?」

「……何だか時雨くんの匂いを吸ったら大丈夫になってきた」


 美月先輩は大丈夫かなと思ったが思った以上に大丈夫だった。


「無理はしないでください、美月先輩」

「ううん、もう大丈夫。ショックだったのはショックだったけどもう平気かなぁ。落ち着くためにまた匂いを吸うかもしれないけど!」

「まあ、それくらいなら勝手にどーぞ」

「やった!」


 二百回目よりも前で俺が美月先輩を見るのはこの学校が落ち着いたくらいだった。だからモンスターが出てきた時どういう感じだったのか全く分からないからどう乗りきったのか分からない。


「まずは教室の中の生徒を助けるか?」

「そうだね。人手が少なくなりすぎるのも困る」


 全員助けたとしても食いぶちに困るだけだ。マンパワーは必要だ。でも人が多くなればなるほど生活水準を維持するのは難しい。


 まあここから離れるからどれだけ助けても俺にはどうでもいいことだ。


「あっ、それならあたしの教室からにしない? 上から行った方がよくない?」

「はい、そうしましょう」


 美月先輩のクラスメイトにも重要な役割を持っている人がいる。だからそこから行く意味はある。


 三年のクラスがあるフロアに向かえばここもモンスターに埋め尽くされていた。しかもチンアントではなくハイピジンだ。


「うわっ! はやっ!」


 子供くらいの大きさをしているハトのモンスター、ハイピジンがこちらに気が付いて飛んで突進してきた。


 一番先に狙われた美月先輩は何とか避け、千虎はそもそも動かなかったからダメージを受けなかった。


 さすがに二人にこの速さはまだ早いかと思って影の御手でハイピジンを拘束する。


「今のうちに」

「さっっすが!」

「あぁ」


 速さを失くしたハイピジンは簡単に倒すことができる。初心者のハイピジンの攻略方法は止まった直後を狙うというものだが、今はその時間はない。


 それに二人は着々とレベルを上げているし俺もレベルが上がっている。前までのステータスでは考えられないくらいのレベルアップでのステータス上昇だ。


 これは主人公くんとステータス上昇率は競えるんじゃないのか? そもそも俺は前のステータスが蓄積された状態で初期ステータスのようになっている。


 じゃあその状態でレベルが上がればステータスはどれくらい上がるのかと思った。前のステータスと同じくらい? それとも少し上がる? 正解はその先、かなり上がる。少しだけ希望が湧いてきた。


寧音(ねね)! いる!?」


 3Cの教室にたどり着いて美月先輩がそう名前を叫ぶ。


「あー、美月ー? 助けてー」


 気怠そうな感じで美月先輩に答えるその女性とその教室内を見れば異常性が一目で分かる。


 教室の中央に仰向けになっている女性がおりその周りにはモンスターも生徒含めてぐったりとしている。


 中央の女性は青のメッシュを入れている黒髪をツインテールにしている女性でいつも以上に気だるげに感じる。


 彼女は美月先輩の友人で東江(あがりえ)寧音。東江先輩と西野先輩で東西コンビと言われていたな。


「ど、どういうこと!? 寧音どういうことなの!?」

「えー、分かんなーい」

「分からないのならスキルですよ、美月先輩」

「あっ、そっか。寧音どんなスキルを持ってんの!?」

「えー……と、怠惰浸食ー」

「聞くからに怠惰なんだけど。あんたの怠惰のせいでこうなってるわけ?」

「んー……さぁ……」


 東江先輩のスキル『怠惰浸食』は自身が堕落すればするほど周りが堕落していく。それは誰も防ぎようがない、存在の原点から変化させる。


 まあその空間に入らなければ魔法やスキルで外から攻撃することはできるんだけど。


「周りのモンスターは倒します」


 影の御手で教室内のモンスターはすべて殺した。


「ありがと! ……でもどうすればいい?」

「まあ、動いてもらうしかないですよ」

「寧音! 動きな!」

「えー……むりー……」


 このスキルの厄介なところはだらける気分に少しでもなれば魂の芯にまで怠惰になる。それを戻すことができればそもそもだらける気分にはならないというだらければ最後な周りも巻き込む厄介なスキルだ。


 まあ一応だらけようとする気分は収まるから永続的ではない。


「時雨、どうする? 周りの生徒だけでも回収するか?」


 それは考えたけどここにいるのが一番安全なんだよな。だってここに近づけば怠惰になって動かなくなるそんな安全なエリアはここしかない。


 でも動かなくなればどんどんと体が堕落していくから体にはよくない。


「どうにかしてあの先輩にスキルを止めてもらう必要があるけど、今は周りの人たちを助けよう」

「魔法は通るんだな」

「そうみたいだね」


 さっきから東江先輩に話しかけている美月先輩をよそに影の御手で教室から生徒たちを外に出させる。


 教室の外に出した生徒たちは少しすれば堕落から解放されて動けるようになった。


「あぁ、動けるようになった」

「何だったんだ今の。……全く起きる気力がでなかった……」


 今までの体験を口々に話す救出された人たち。そして今までの原因である東江先輩に矛先が向いた。


「あいつのせいで今まで動けなかったんだろ!? 最悪だよあいつ!」

「そうだふざけんな! 一歩間違えれば死んでいたんだぞ!」

「どうしてくれるんだよ!」


 全く、こういう人間はどうせこの先ろくなことはしない。それでも暗殺できないのが面倒なところだ。


 さすがに止めることにしようかと思ったところで美月先輩が先に口を開いた。


「はぁ? 何言ってるわけ? 寧音がいなければどうせモンスターに食べられてたでしょ」

「そ、そんなことはない!」


 助けられていたのに自分が正しいと信じるか。それなら試してもらおう。


「そんなことはありますよ。でも自信があるのならどうぞモンスターに立ち向かってください」

「い、いや……さすがにそれは……」

「それならどうして動けなかったことに文句を言っているんですか? 助けられた分際で。こういうのを恩を仇で返すということなんですね!」

「言ってやるな、彼らは無知なんだ。だから今のこの現状をまるで分かっていない。私たちが何も言わなくてもどうせすぐにモンスターに食べられて死ぬモブのような存在だ」


 文句を言っていた生徒たちは顔を真っ赤にするがそれと同時に俺もダメージを受けたんですけど。俺もモンスターに殺されたモブなんですよね。


「お前らになんか頼らない! 俺は行く!」


 一人がそう言うと一人、また一人と生徒たちが歩き出してその場には誰もいなくなった。東江先輩に文句を言っていない人でもいたたまれなくなって付いて行ったのだろう。


 そして彼らが行った方向はまだ俺たちがモンスターを片付けていない場所で悲鳴が上がったのが聞こえた。


「逝ってしまったか……」

「いいじゃん、どーせ仲良くできないんだから」


 主人公くんたちと行動するヒロインたちは綺麗事は言わない。ちゃんと役割を果たす人なら受け入れてくれるけど悪意を向ける人ならクランから追い出すほどだ。まあ秩序がなくなっても秩序を外れることをしなければ大丈夫というだけだ。


 俺は役割を果たすから弱くても受け入れてもらえていたが悪さをするやつは主人公くんがすぐに発見していた。……あれ、それってロードセンスのおかげだよな。これから大丈夫かな。


「あー、動けるようになった」


 ようやく体を起こして立ち上がった東江先輩。


「もう、しっかりしてよ。早く行くよ」

「その前に。この子誰?」

「時雨くんだよ」

「ふぅん……」


 東江先輩は俺の顔をじっくりと見てくる。


「東江寧音。何だかいい感じだね」

「そうですか?」

「うん。付き合ってもいいくらいにいい感じ」

「はぁ!?」


 美月先輩が驚いた声をあげるが俺もビックリしている。


 ……うーん、やっぱり今まで目をそらしてきたけどそうなんだよな。これは好感度まで引き継がれている。今まで覚えていた違和感はこれで説明がつく。そうじゃないと残念ながら俺はモテない。


 それに一目惚れという線も俺が繰り返しの中でそれはないと分かっているから好感度が引き継がれているのだろう。


 ただ百九十九回まで変化があまり感じられなかったのが少し気になる。いきなり好感度が爆上がりしている感覚に陥っているんだよな。


 二百回目で何かが起こったのか……? 考えても仕方がない。


「それは光栄ですね。でもそういう話は後です」

「ん、後で話そ」

「いやいやいやいやいや! 寧音が好きなタイプは爽やかイケメンだったじゃん!」

「んー……そのタイプは変わってないけど、時雨は別的な?」

「美月先輩、東江先輩、行きますよ」


 余裕があると言えばいいのか緊張感がないと言えばいいのか。


「ウチは寧音でいい」

「そう言えば私も千虎なんて他人行儀ではなく涼子で構わないぞ。いやそう呼んでくれ」

「了解、寧音先輩に涼子」


 最初でこんな空気は初めてだ。最初はもっと張り詰めていたのに。


 それにしてもどうしたものか。涼子はまだいいとしても美月先輩と寧音先輩はどうしたものか。主人公くんに惚れてくれた方が俺は動きやすかったんだけどな。




 北校舎を四階から制圧していき北校舎にモンスターの気配はなくなった。どうやら南校舎は主人公くんが片付けているみたいで崩れるんじゃないかってくらいに亡霊騎士の剣を振っている。


 南校舎は主人公くんに任せて大丈夫だろう。ロードセンスがなくなったとしてもステータスの高さは理解している。


 次に向かう場所はグラウンドや中庭といった屋外。屋外の方がまだ外から入ってくるからモンスターは多くなる。


 でも校舎の中でレベルアップしたことでそれに対応できる。


「みんな今何レベル?」

「私はLv5だ」

「あたしLv4!」

「へー、ウチ3」

「時雨はどうなんだ?」

「俺は7だよ」

「すごいね時雨くん!」

「いや、俺は魔法で多く倒せているからですよ」


 俺が前のステータスで7にするのにかなり時間がかかった。それはステータスが低いから倒す数が少ないからだ。でも今は影の御手で倒す数が格段に多くなっている。


 それに必要経験値も少なくなっている。ステータス自体がレベルアップしているみたいだ。


 まあそれよりも最低でレベルが3なら外に出ても大丈夫そうだ。俺がサポートすれば問題ないけど魔力が心許なくなってきた。


 レベルアップしても体力や魔力は回復しないから適度に休憩を挟まないとヒロインズが先につぶれてしまうからここらで少しだけ休むことにした。


「ちょっとだけ待ってください」

「うん、いいよー」


 少しだけ足を止めて俺の用事のために休憩する。


「飲み物いるのならどうぞ」

「あっ、あたしの好きな飲むヨーグルトだ!」

「このお茶を貰おう」

「あー、このパックのトマトジュース好きー」


 三人の好きな飲み物を出しつつ異空間からモンスターを倒してドロップした魔石と小瓶を取り出す。


「それなに?」


 美月先輩が飲むヨーグルトを飲みながら聞いてくる。


「これは魔石を魔力に変換するアイテムです。これを魔石に一滴かければ……」


 小瓶の液体をかければ魔石は瞬く間に物質から見えない気体に変化して俺の中に入り込んでくる。それを魔力がマックスになるまで続ける。


「それってどういう原理?」

「それは分かりません。でも魔石は魔力の塊でそれを分解すれば近くの魔力を持ったものに還元されるらしいです。それを可能にしたアイテムです。ただ還元される魔力量は半分以下らしくて周りにモンスターが出現する可能性も出てくるみたいなのでこういう状況じゃないと使えません」

「そうなんだ。よく分かんないけどあたしたちには必要ないってことね!」

「まあ今はそうですね」


 これから必要になることはあるだろう。ちなみに俺は二百回目までは一切必要なかったけどね。


「さ、行きますか」

「時雨。確認だがこれからどう行動するつもりだ」

「一先ずは学校内のモンスターをできる限り倒す。それから少し休んでから学校を出るつもりだね」

「質問したいことが三つある。まずは外に助けを呼ばないのか?」

「全世界で同じ状況になっているよ」

「えっ、マジで?」

「大マジです。何なら定点カメラを見れば分かりますよ」


 そう言えば美月先輩と涼子がスマホで調べ始めた。今はまだカメラやらが機能しているから見れる。


「ほ、ホントだ……!」

「……こんな事態になっているのか……!」

「へー、大変」


 寧音先輩は相変わらず他人事だが二人はこの事態を重く見ている。


「……なら、なおさらここに滞在するのはダメなのか? 親は絶対に子供がここにいると思っているぞ」

「滞在することはないね。すぐに理由が分かる。連絡がしたいのなら今からでもしていいよ」

「その理由は聞きたいところだが……三つ目、学校を出るのなら今からではダメなのか?」

「ここでどれだけ人数を残しておけるかで未来は変わってくるからね。今から出ればまず俺たちがしんどい思いをする」

「ふむ……」

「あとは今モンスターは各地に満遍なく散っている。それを上手く移動させたい」


 やっぱりここで色々と突っ込んでくるのが涼子だよな。しっかりとしている。


「なんか色々話してるなー」


 寧音先輩なんて頭を空っぽにしているのかってくらいの感想だ。


「なら次行く場所はどこだ。そこを伝えるのはダメなのか?」

「大丈夫。最初に目指すのは南坂ショッピングモールだよ」

「分かった。それは連絡しておく」

「あっ、あたしも連絡しておこーっと」

「……ウチはいいか」


 寧音先輩以外の二人がスマホでメッセージを入れた。


 これが俺たちのベストルートだ。それはロードセンスを持った主人公くんが証明してくれた。


 話し合いを終わらせて俺たちは屋外に出た。


 屋外に出れば遮られていないからモンスターにすぐに発見された。しかもモンスターに食べられている人が遮蔽物がないからすぐに目に入る。


 目に入るモンスターを倒して進んでいると可愛らしくない悲鳴が聞こえてきた。


「ぎゃああああああああ!」


 こちらに泣き叫びながら走っている女子生徒がいた。


 今はサイドテールをしているがほぼ毎日髪型を変えて自分に合った髪型を模索している女子生徒、北川(きたがわ)藍那(あいな)


 彼女は俺と同じクラスで亡霊騎士との戦いから逃がした主要人物の内の一人。それがどういうわけか大量のモンスターに追われている。


「ああああああああああ! 助けてええええええええええ!」

「うお」


 俺に抱き着きながら助けを求める北川。


 とりあえず背後に来ていたモンスターは半分ほどを影の御手で殺して半分は半殺し程度で済ませた。


「あとはどーぞ」

「あぁ!」

「経験値もらい!」

「ん」


 三人はすぐに残りの半分を殺した。さすがにレベルが上がったことでこれくらいは簡単にこなせるようになったな。


「大丈夫?」

「大丈夫じゃない! 何なのあの女! いつもは優等生みたいな顔をしているのにこんな状況になったらサイコになるじゃん!」


 あー、もうそれだけで何が起こったのか理解した。そしていつまで抱き着いているんだ北川。何より顔をスリスリしないでほしい。


 ……北川もやっぱりそうなのか? 北川はこんなことをする奴じゃないだろうからな。でも北川は本当に分からない。そこまで好感度が高かったのかと疑いたくなる。


「なーんだ、もう終わり?」


 北川の後ろから来たのは2Bにいた最後の主要人物である神蛇(かんじゃ)千里(ちさと)


 髪を肩まで伸ばして一見すれば非の打ち所がない完璧超人な高嶺の花な女子生徒だがこの状況になって一番楽しんでいるのはたぶん彼女だ。


「教室にいたボスは倒したのかしら?」

「龍木くんが倒したよ」

「ふふっ、あなたがいなければ倒せなかったのにそれは龍木くんが倒したと言えるの?」


 やっぱり、神蛇は見ていたな。最初の段階でここまでスキルを使いこなせるのは神蛇だけだろう。


「いい引き立て役だっただろ」

「それもそうね。バッチリ引き立て役が似合っていたわよ。……ふふっ」

「はぁ? なにあんた。戦っていない奴がなに笑ってんの?」


 俺をバカにしたような態度をとる神蛇に突っかかるのは美月先輩。


「あぁ、すみません。南くんの必死そうな顔を見たらつい笑ってしまいそうになったんです。滑稽で、もっとイジメたくなっちゃう感じが」

「えー……ヤバい奴じゃん」

「こんな世界になってヤバくならない方がヤバいですよ」

「ん? どういうこと?」

「世界に順応しろってことですよ。まあここまでイカれるのは違いますけど」


 美月先輩もこんな風になったら収拾がつかなくなる。それにまだ序章なのにヤバくならないとと言ってすぐにヤバくなるのがヤバいだろ。


「で、何をされたんだ?」

「さっきの見てたでしょ!? もうすっっっごくモンスターに追いかけられてたの! どうやったのか分からないけどモンスターを一瞬で移動させてきて私に追いかけさせてきたぁ!」


 神蛇のスキルは『マジックのようなことを何でもできる』スキルで、それを応用すれば遠くのことも見れるしモンスターを一瞬で移動させてくることも可能だ。


 その被害を一番に受けたのは北川なんだな。可哀想に。でも外のモンスターを集めてくれているおかげでかなりモンスターは少なくなっている。


「あー、頑張ったね」

「頑張った? そんな次元の話じゃないから!」


 まあ普通の感性の少女が大量のモンスターに追いかけられたらこうも言いたくなるものだ。


「あまり時雨を困らせるな。今はそういう状況ではないはずだ」


 涼子が北川を諫める。


「そ、それは分かっているけど……」

「北川もあの快楽者の相手をしていたんだ、大目に見てやってくれ。涼子」

「……分かったが、抱き着くのはやめたらどうだ? ん?」

「あ、うん」


 涼子の圧力に耐えかねて北川は俺から離れてくれた。


「この二人はだれ?」


 美月先輩は俺の教室に来ていたけどさすがに知るわけないか。


「この二人は俺のクラスメイトです。俺が最初に飛ばした人たちの中にいました」

「あっ、あれってあんたがやったんだ。……そう言えば名前は?」

「南だ」

「時雨南ってこと? 何で名前だけを言ったの? そう呼んでほしいの?」

「いや、南時雨だから苗字を言っただけだ」

「……紛らわしい。よろしくね、時雨くん。私は北川藍那だから藍那って呼んでいいよ」

「あぁ、よろしくね藍那」

「……ふん」


 恥ずかしくなると顔をそむけるのは変わらない。まあ変わっていたらそれはそれで大問題だが。


「さ、行きましょう」

「私にツッコミをさせるとは驚きね、時雨?」


 誰もが神蛇をスルーして行こうとしたがそれをさせないのが神蛇。


 スキルを使って全員をこちらに集中させてきた。神蛇のスキルはえぐいくらいに使い勝手がいいからな。それに一番生存率が高い。主人公くんよりも生き残っている。


「私は神蛇千里、この秩序がない世界で女王さまになる女よ」


 ここにいる俺以外の人、いやそれから寧音先輩も俺と同じか。俺と寧音先輩以外の人は何を言っているんだという顔をしているのだろう。


 まあ誰も突っ込まないから俺が話しかける。


「何を言っているんだ、神蛇」

「この世界がどこもかしこもモンスターだらけなのは分かっているわよね? だからこんな世界になったのなら統治者が必要よ。それが私よ!」

「どういう統治者になるんだ?」

「文字通り私が王女になって君主制をこの日本で新たに作るのよ。新日本王国の誕生ね」

「まあいいんじゃないか」

「時雨何を言っているんだ!?」


 涼子に何アホみたいなことを言っているんだと反応されるが別に悪い話ではない。


 神蛇千里は統治者として生まれたと言っても過言ではないほどにリーダーに向いている。性格に難はありまくりで退屈ならば何をしでかすか分からないけどそれを抜きにすればその手腕は素晴らしいものだと俺は分かっている。


「時雨ならそう言うと思っていたわ。ちなみに王さまはもれなく時雨よ」

「はぁ!? そんなこと認められるわけないでしょ!」

「どうしてですか? もしかして時雨が好きなんですか?」

「そうだし! 時雨くんが好きだから認められないの!」


 おぉ、堂々と告白する美月先輩パネェっす。そして恥ずかしいっす。


「ですが私も時雨を手放すわけにはいきません。彼ならどうにかしてくれると感じているんですから」


 ん!? このセリフの彼の部分は二百回目以前は主人公くんだった。でも今回は俺だ。


 いや、今はこんなことを呑気に話している場合ではない。


「さっさと行きますよ。話すのは終わってからできます」

「あぁ、後でたっぷりと話さないとな」

「そうだね、後でたっぷりと時間を作らなきゃ」


 ふぅ、俺には彼女らを制御できないぞ。主人公くん、どうにかしてくれませんか。

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