青春
こいつらの学園生活を短編集としてポコポコ上げます。
こいつらが元気なところを見ているとこっちまで元気になってくるわ。
「おーい、いい加減もう始めようぜ~。」
啓は練習が始まってから、軽く慣らしをした後延々と吹き続けたアンパンマンマーチをサビの途中で止めて言った。
「何をよ。」
「青春青春。」
なんだ青春って、突拍子もない。だいたい今十分青春している、大会が近いんだぞ。
そう言いかけた言葉を飲む。こいつはいつも適当に吹いてるくせに、僕たちと比べて音色もリズム感も抜群に上手い。先輩やOBですらこいつには強く言えないのだ。
「恋人が欲しいの?。」相槌をうってやる。
「うわ、なんだお前頭の中そればっかかよ。エッチな奴だなあ。」
…ふざけたやつだ。
僕が憤然とするのを気にも留めず啓は続ける。
「毎日同じ時間に起きてさあ、同じことやって。むなしくならんのか君たちは!」
啓はまるで政治家の街頭演説のようにトランペットパート全員に問いかける。
「な、なんですか急に。」
1年の宮本さんがおびえて答える。
「黙れ!!。」
優しい宮本さんが答えてくれたのにめちゃくちゃな奴だこいつは。
宮本さんに同情して視線をやると、少し顔を赤らめていた。
僕はすこし肩を落としたまま啓に視線を戻しヤジを飛ばした。
「なにが言いたいんだー!。」
啓はそれまでへらへらしていた顔を真面目な顔に切り替えた。
「彼女が欲しい。」
「エッチなのはお前じゃないか。」
僕は不満そうな顔をして答える。
「違う違う、全然違う。ハルのは自分を満たしたいがために恋人を作ろうって考えがスケスケスケ助なんだよこのスケベめ。」
軽口をたたいたつもりだった僕は、突然正論を突き付けられてへどもどしてしまった。
「じ、じゃあお前のは何が違うっていうんだ。彼女が欲しいってことはつまりそういうことでもあるだろ。」
「犬を助けたいんだ。」
「な。」
あまりに突拍子のない言葉に固まってしまった。
「い、犬?を?。」
「犬だ。」
「...そうか。」
啓は僕に理解されてないことを不服そうにして、周りに同意を求めようとしたが皆言葉の意味を理解できておらず、啓は残念そうにしていた。
「はあ、あのな犬が捨てられているだろ?。」
「どこに。」
「どこだっていいだろ、外だよ外。普通は家の中に捨てないだろ。」
「普通は捨てないぞ。」
「うるさいなあ、あるんだよそういうことが。」
無理やり話を進められているが、これ以上流れを止めると不機嫌になるので黙っておく。
「それで雨が降ったら捨てられた犬はめちゃくちゃ雨にうたれるわけだ。俺はそんなかわいそうな犬がいることを彼女に教えるだろ?そしたらその彼女はそれからそういう犬を助けるようになるんだ。俺はそれを繰り返して犬を助ける女の子を世に放つんだ。」
「猫はどうするんだ。」
「俺は猫アレルギーだから..。」
なんて奴だ。猫も助けろよ。
「だからな、俺は彼女をすぐに作らなきゃいけないんだよ、わかるか?あと70年ぐらいしか生きられないんだぞ。」
そういい、啓は焦りながら譜面台を片付け楽譜を綴じたファイルをしまいだした。
「おいどこ行くんだよ。」
「彼女探しに行くに決まってんだろ、時間ねえんだぞ!。」
啓はそういって荷物を両手に持ち、早足でパート部屋を出て行った。
...それは青春とは言わないから早く帰ってきてくれ。
短いけど書いてるのは楽しいなあ。