第7話:「計算の内」
前回のあらすじ、「疑問が増殖しやがる…」
「…」
試験からの帰り道で、自分のスキルについて考える。俺のスキルには不明な点が多すぎる。
大した消費もナシに敵を一撃必殺できるのはおかしい。と考えるのは、ゲーマー的思考に寄りすぎているだろうか。
黒い何かが触れたものは、例外なく一瞬で消滅している。試しに足に黒塗りしたら、地面がゴリゴリ削れていった程だ。
なんにせよ、あまり多用したくはない…
「とは言っても、背に腹はかえられない、か。」
掌で燃える炎を見やる。揺らめくソレは、火種も要らず、酸素も使わない。
だが、悲しいことに運動神経が皆無な俺は、今のところコイツに頼るしかないのであった。
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「もう、遅くなるなら言っといてよね!」
昼過ぎ頃。
慣れない肉体労働でヘトヘトになってギルドに帰ってきた俺を出迎えたのは、随分前から待っていたのだろうか、手にフォークを握りしめたワイスだった。
「いや、返事すらさせてくれなかっただろ…」
適当にワイスをあしらって受付で依頼達成の手続きを済ませる。
冒険者カードのランクがEになっていることを確認していると、
「これでルークも、晴れて冒険者だね!」
何がそんなに嬉しいのか、すっかり機嫌を直したワイスが俺のカードを覗き込み言う。
「ルークの初依頼達成を祝して、今日は私がお昼ごはんを奢ってあげる!」
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ただの薬草採取でも、依頼達成報酬は1万G程出てくれた。初心者応援キャンペーンみたいなものだろうか。
「宿代を抜きにしても昼飯代ぐらいは払える」。とは言ったものの「いいからいいから」と押し切られてしまった。
オムライス美味い。異世界の料理普通に美味い。
「そう言えば、新しい触媒は買えたのか?」
「あー、なんか落としちゃってたみたいで、肌の白い男の子が見つけて、返しに来てくれたんだ。でもおかしいよねー?森に入るまではあったのに。」
と言って、小さな白い宝石が嵌った指輪を見せてくれた。
ほえー、杖とかじゃないんですね。って、
「肌の白い男の子?」
「うん、フード被ってて顔はよくわかんなかったけど。そうそう、次は落とさないように気をつけるんだな。って言ってた。クックックーって。」
あー、これはあのカミサマの仕業だろう。魔法を使えなくして俺が助けるように仕向けたのだ。
説明はしたくないが最低限の知識は持っていてほしい、グダグダになるから→じゃあ説明役用意するか。って感じだろうか、人様に迷惑かけんなクソったれ。
「ルーク、オムライス嫌いだった?」
俺が一人で神にヘイトを溜めていると、眉間にシワが寄っていたのか、ワイスがおずおずと聞いてくる。
「いや、違う違います。ちょっと考え事をな。」
「へぇ〜、どんな?」
ああ、追求されるのね。
自分は神と因縁がありますとか言ったら、痛いやつだと思われるだろう。
何か代わりになるものは…
あー、そう言えば1つ疑問に思っていたことがあるな。
「ワイスはなんで、俺を助けてくれるんだろう、ってな。」
約束は道案内までだったはず。
そもそもワイスからすれば、俺はよくわからない不審者扱いでもおかしくない。
なのにどうして俺は今、昼飯を奢られてるんだ?服のこともあるし、理由を聞きたかった。
うーん、そうだなあ。と彼女は前置きして、
「誰かを助けるのに、理由なんている?」
俺が思いもよらない答えに驚いて言葉を出せないでいると、彼女はイタズラっぽく笑って、
「ごめん、ちょっと嘘ついた。私、ルークの魔法に興味があるんだ。だから、」
確かに彼女からすれば、俺は見たこともないスキルを使った人間だ。
だが同時に、それだけのはずだ。ここまでする道理はない。
ならば俺のことをこうやって助けるのは、即ち長期的に俺と関わりスキルの全貌を掴みたいから、だろう。
だとすると、次に続く言葉は…
「私とパーティを組んで欲しいの。」
これも計算の内か、神。
俺は普通の男子高校生、ルーク(嘘)。ひょんな事から異世界転移しちゃった俺が助けたのは、天才美少女魔法使いのワイス!?しかも、彼女は俺とパーティを組みたいって!?俺、これからどうなっちゃうのーーー!?
って感じのラブコメ始まってくれねぇかなぁ。