第6話:「もう少し頑張りましょう」
前回のあらすじ、ワイスにせびられてステータスを表示させたら、すごい空気感になってしまった…
冒険者になったはいいが、生活するには金が必要だ。地図で宿があることはわかっているので、Eランク認定の試験を受注してさっさとギルドを出る。
どうやらEランクは試験に合格すると、報酬が出るらしい。初心者に優しいっていいね。
「ごめんごめん!別にバカにした訳じゃないから許して、ね?」
付いてきたワイスがなんか謝ってるが、別に怒ってない。俺はこの世界に来たばかり、いわば産まれたての状態だ。いや知らんけど。
ステータスが低くても何らおかしくない。気にしてないったら無いのだ。
「さっきは説明してなかったんだけど、スキルの中には偶にユニークスキルって言うのもあるの。今まで1度も登録されてないスキルは表示されないことがあるから、きっとそれだよ!」
なるほどな、スキルに関してはそれで説明がつく。むしろオンリーワンっぽくて安心だ。
…まあ、ここでスキルがはっきりしてくれればそっちのが楽だったんだがな…
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街の外を目指しながら、ワイスに気になっていたことを尋ねる。
「どうしてさっきの戦闘中、魔法を使わなかったんだ?」
「あれ?説明してなかったっけ、魔法を使うには触媒となるものが必要なんだ。」
「いや、それは聞いた。それとお前が魔法を使ってない理由になんの関係が?」
聞いた途端、何だか嫌な予感がした。
「実は…失くしちゃった。」
てへっ、じゃねぇだろ。
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街から出た俺は、依頼で指定されている場所へ向かう。ちなみにワイスは、新しい触媒を買うとかで街に戻った。
「『試験終わったら、ギルドに集合ね!』かぁ…」
Eランク認定試験の内容は、薬草採取。
ワイスはすぐ終わると思っていたみたいだが、俺は学校の雑草抜きボランティアでクラスのみんなより圧倒的に量が少なかった男だ。サボっていた訳では無い、単純に俺の仕事が遅かったのだ。
「遅かったら怒られるかなあ……さて。」
問題なく薬草が群生している場所へ到着すると、てきぱき(当社比)と仕事を始める。
今俺が採取している薬草は、薬にすると体力が回復する飲み薬、まあゲーム風に言えば回復薬になるようだ。
「飲んだらすぐ回復とか、どうなってんだろうなぁ。」
どうでもいいことを考えながら採取していると、ギルドで渡された袋がいっぱいになった。これで量は十分なハズだ。
早く街に戻って今日寝る場所でも探すか、と思っていた時だ。
「…そう易々と試験は終わらないってか。」
腰をあげて帰路に着こうとした俺の前に現れたのは、背が小さく、緑色の肌、木でできた棍棒を持って、腰にボロ布を巻いた、圧倒的テンプレート感を放つゴブリンが1匹。
ニヤついたように見えるその容貌は、まるで初狩りをして楽しんでいるFPSプレイヤーのように醜悪だ。
袋をその場に置き、戦闘態勢を取る。と言っても武器も何も無いので、素人なりにファイティングポーズをするだけだ。
「来いよ。」
意味もなく挑発すると、本当に飛びかかってきた。
しかも魔物だけあって俊敏で、予想よりは遥かに早く動いた。
とはいえ心構えは出来ていたので、ちょっと大袈裟にサイドステップすることで避けることが出来た。
最小の動きで避けるとかは無理だ。怖いもん。
そして続く俺のターン。
「オラァッ!」
無防備な側頭部を素手のまま殴る。
素手でもダメージが通るか試したかったからだが、いらない疑問だったようだ。
ゴブリンは衝撃でちょっとよろけたくらいで、悲鳴さえあげなかった。新体力テストで全項目「もう少し頑張りましょう」は伊達ではなかった。
「ぐぬぬ、黒塗り。」
腕に黒い何かが纏わりつく。出来れば使わずに勝てれば良かった。
燃え盛るソレは圧倒的な威力を持つ一方で、どこか不気味にも感じていた。
何せこの世界に生きる住民が理解不能なモノらしいのだ。どんなデメリットがあるかわかったもんじゃない。
「死ねぇっ!」
若干の怨みを込めながら、手刀を振り下ろす。
「ギィッ」
しかし、ゴブリンも簡単に死ぬ気はないようだ。衝撃から回復して素早く俺の動きに対応した。
内心で舌打ちをする。ゴブリンが声を上げながら飛び退いて、5センチほど手刀が届かなくなった。
だが…
「は?」
「ギ?」
ゴブリンは肩口から脇腹にかけて、バッサリと俺が狙ったとおりの姿になっていた。
回復薬だが、別に飲んだらすぐ傷が治るって訳でもないそうな。それはそれで夢がないな。