第4話:「ド定番」
前回のあらすじ、蒼眼の銀髪美少女ワイスをクマから助け、お礼に道案内してもらえることになった。
とりあえず1番近い街に行きたい、とワイスに頼むと、さっきの道を進んでいた方向とは逆に歩き始めた。
さっきの方向では街まで3日はかかる上に、夜は魔物も出やすいらしい。かなり危ないところだったようだ。
道すがら、極度の田舎者のフリをしてワイスに尋ねてみたが、よくある魔法とか魔物とか冒険者とかが存在する中世風異世界のようだった。
ちなみに、この世界の冒険者は、昔まだこの世界が開拓される前から存在していて、未開の地を切り拓いてきた存在だそうな。
今はもうこの国には未開の地なんか無くなって、ほぼ何でも屋みたいになってるらしい。
「魔法を知らないなら、さっきの黒いのはなんだったの?」
こっちが聞きたいところだが、適当に誤魔化す。
「俺の村じゃ、みんなこれしか使えないんだよ。多分魔法の一種なんじゃないか?」
どうやら、俺のスキルは一般的では無いようだ。まあ一般的でも困る訳だが…そう言えばさっきの説明じゃ、魔法の種類は、火、水、土、風の4属性だとか言っていたな。見た目は黒っぽいし、闇魔法があればそれでゴリ押せたんだが…
「おかしいなぁ。私は魔法使いの冒険者なんだけど、キミのみたいな魔法は見たことも聞いたこともないよ?」
さすがに苦しかったか?
何とか取り繕う言葉を探す。
「俺がスタンダードなことを知らなかったように、そっちにも知らないローカルなことがあってもおかしくないんじゃないか?」
「それもそう…かな?」
…口から出任せもいいところだが、何とか誤魔化せたみたいだ。しかし、魔法使いだったのか。クマと打ち合えていたのは魔法のおかげだったのか?
「こっちからも質問なんだが、さっきは何故魔法を使わなかったんだ?いや、使っていないように見えただけで使っていたのか?」
「うーん、半分正解、かな…それよりもほら、街に着いたよ!」
彼女に言われ、森を抜けて草原に出ていたことに気づいた。彼女に向けていた視線を指さす方向へ向ける。
そこには堅固な防壁で囲われた街の姿が見えた。入口らしきものにあるのは検問だろうか。
「ここが私の生まれた街、エギンだよ!」
吹き抜ける一陣の風が、こちらを見るワイスの髪を少し靡かせた。美しい銀の煌めきに少し見とれかけた俺は、なんとなく恥ずかしくなって誤魔化そうと、
「…な、なぁ、なんでこの街には壁があるんだ?」
率直な疑問をぶつける。適当な質問だなぁ。
いや、よく考えればそもそも黙っててもバレなかっただろう。
「え?この街というか、少なくともこの国は全部の街とか村にあるはずだよ?魔物から街を守るために。」
「なるほどな。」
そりゃそうか、考えたらわかることを聞いてしまった。
「ていうかルークの村には、壁なかったの?一体どこから迷い込んで来ちゃったんだろ…」
極東の島国だよ、とありがちな答えをしてみるが、彼女は首を捻るばかりだった。
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俺はどう考えても怪しい者なのだが、手ぶらであり、ワイスが居たこともあって検問を突破できた。
門を抜けて街に入ると、活気のある街の様子が目に入る。人通りも多く、露天商のような物もあるのか、客の呼び込みの声が聞こえてくる。
建物もレンガ造りの物ではあるがしっかりと立ち並び、何故か読めるよく分からない文字で書かれた看板が出ているものもあった。
『武器屋』『宝石屋』『薬屋』・・・そういう感じね。文字が読めるのはあのカミサマに残った最後の良心ってところだろうか。
検問のおっちゃんから貰った地図を見るに、住宅地などもあるようだ。
「ルークはこの街に何をしに来たの?」
ぼーっと地図を眺めていると、ワイスに尋ねられた。そう言えばまだ考えていなかった。少し考えて答える。
「そうだな…ひとまずは、冒険者をやってみたい。」
神は俺に何故召喚したかすら明かさずに消えた。
ならば当面の目標は、日本に帰ることだろうか。
無事元の生活に戻るため、動かなければならない。
「そっか、ならギルドに行かなきゃね!」
あぁ、ド定番のやつ来たな。
働いたことも無いガキが、冒険者なんてできるだろうか。
ああ、不安で仕方がない。