第56話:「天啓」
前回のあらすじ、アタマのおかしい師匠サマの発言によって狂気の耐久性テストが始まってしまった。
「《火炎の踵杭》、オラッ!」
ローズが飛び上がり、詠唱とともに空中で踵落としを放つ。
それと同時に空気が焼き付き、圧倒的熱量が頭上から押し迫る。
「…白か。」
まぁ短パンなんで見えるわけないんですけど。
適当に呟きつつ右手で払い除ける。それだけで殺意の塊は消滅した。
なんとも芸術点の高い技だ。実戦で使ったことあるんだろうか。
「てか熱ッ!?あッ、あつッ、あッッつ!」
余熱だけで火傷しそうな程だった。大袈裟にリアクションしつつ後ろに下がる。
いやいや死んじまうぞコレ。正気じゃねぇ…
「次行くよー。」
そんな風に戦慄している暇もなく、甘い声が掛けられた。
「えっ、ちょ─」
「《氷の槍》」
返事を待たず打ち出された槍が、急激に空気を冷やしていく。
右手に向けて放たれたソレは、やはり右手に触れた瞬間その役割を放棄した。
「ダメかー。激しい温度変化があれば何か変わるかなと思ったんだけど。うーん…」
ワイスが次の手段を考え始めた。空気が異常を起こしてなんなら小規模な霧のようになっているが、腕にはなんの変化も見られない。
言うなら今だろう。
「あのぉ、ひとついいですか?」
「なにかな?何か気づいたこととかあったらどんどん言って欲しいんだけど…」
一呼吸置いて、万感の思いを込めて伝える。
「そろそろ止めにしてくれ。いやしてください。」
都合14発。身体には何ら影響はなかったが、迫り来る命の危機に俺の精神は耐えられなかった。
「うーん、でもなぁ…」
どうにかして止めさせないと…
..!これは天啓かもしれない...!
「そもそも、なんで魔法でなら干渉できると思ったんだ?」
「フッフッフ..よくぞ聞いてくれました。」
よし、とりあえず落ち着いてもらえたようだ。
「魔力とは、つまり質量を持たない純粋なエネルギー…その影響を受けた攻撃ならば、貴方のその意味不明な物体Xに干渉できると思ったのです..」
はえー、酷い言われ様。
…てか待てよ。
「それなら、受ける魔法は1発2発でよかったんじゃないか?」
問い詰めると、少しビクッと肩を震わせて返事をする。
「い、イヤーソンナコトハナイデスヨ?」
棒読み。視線がシンクロナイズドスイミング。オマケに疑問形。
なんと分かりやすい。そういう方面でも可愛いのね。
「おい。」
「い、いやだってほら!試してる途中にどんどん他に条件を足すとどうなるのかとか色々気になって来ちゃってぇ..」
どんどん声がしりすぼみになっていき、捨てられた子犬のような目で見つめてくる。
なんと言うか、卑怯者だ。
「…はぁ。別に怒ってる訳じゃ無い。だからそんな表情するな。」
「…!」
言うと、「いいんですか!?」みたいな表情をしやがったのでペシっとデコピンをかます。
「その代わり、次からちゃんと事前に何するか教えてくれ。いいな?」
かなり温情のある判決だと思うが。
「え゛ぇ゛でもちょっとそれは──」
ペシっ
「ゴメンなさい…ちゃんと次から伝えるようにします…」
「宜しい。最初からそう言っときなさい。」
…
涙目で反省する姿を見ると、少し罪悪感を覚えた。
いや、俺は悪くない。なんも間違ったこと言ってない。消え去れ罪悪感!
ブンブン頭を振って気を紛らわせようとしていると、別の声が掛った。
「愉快なカンジになってるとこ悪いんだがルーク。オレもちょっと試したいことがあるからよ、もう1発だけ受けてくれねぇか?」
少し驚いた。いや、ローズにしては頭の良さそうなことを喋ったからだが。
「今すっげぇ失礼なこと考えたろオイ。」
考えてない考えてないです。
「で、そこまで言って何がしたいんだよ師匠?」
「いや、お前相手ならどんなに威力が高い魔法撃ってもいいんだろ?」
いや、まぁ現状はそうだが…
「ちょっと取っておきの必殺技があるんだが、長いこと使ってないモンだから今できるか不安でな。」
必殺技って…いやコイツが言うからにはマジなんだろうか。
「それ、大丈夫なのか?周囲に被害とか出ない?」
「ああ、お前がちゃんと受けてくれたらな。」
なんでこっちに責任押し付けてくるんですかねぇ。
「まぁいいか、了解。」
右手に黒塗りして受ける準備をする。
「いくぜ!」
そう言った彼女の前に魔法陣が現れた。
空気の流れが変わる。世界が彼女を助けているような、そんな感覚。
少し掛かっていた靄が晴れた。きっと彼女から放たれる膨大な魔力に吹き飛ばされたのだ。感知できる訳では無いが、何となくわかる。
「光条」
放たれたのは、極光。
“当たったらヤバい”と直感した。
“避けたらもっとヤバい”と理解した。だから、
それを右手で受け止めた時、俺の意識は削り取られるように失われた。
断絶




