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第54話:「世迷言」

前回のあらすじ、


「師匠、俺はな…正義のヒーローになりたいんだ。」

「正義のヒーロー..?」


「ああ、そうだ。正義のヒーロー。誰もが憧れる英雄だ。」


そして、誰もが吐き捨てる世迷言だ。

世界は不平等に満ちていて、正義なんてのはどこにもない。

誰かの正義と戦っているのは、いつも違う誰かの正義なんだから。

だからそんな世迷言を大真面目な顔で語る俺を、ローズが笑い飛ばしてこの話はお終い。


「…いい夢じゃねぇか。」


とは、ならなかった。彼女は少しはにかむような、そんな笑顔で俺に微笑みかけた。


「..ッ!そ、そうか。アンタ、変わってるな。」


「ああ、変わってるぜ?そんで、お前もな。」


…少し違う幕引きとなったけど、それでもこの話はお終いなんだ。


ローズが立ち上がって、俺に手を差し伸べる。どうやら休憩時間は終わりみたいだ。

木剣を手渡され、互いに距離をとる。


「なぁ、定命の者よ。貴様らの命は花が散ってしまうかの如く儚い。そんな短い命に、価値はあるのか?」


こういう雰囲気の時は、掛け合いをする。主人公と悪者の勧善懲悪ストーリー。今回は彼女が悪役(ヒール)らしい。

俺が悪役の時もある。セッションみたいなものだ。


「そうだな、俺のような端役に出せる答えでもないと思うが、」


自分の内に抱えている些細な悩み、疑問をカッコつけて言うことで消化する儀式。


「言ってしまえば、人生に意味なんてない。カタチある以上、いずれ全ては終わってしまうんだから。それはお前でさえ、例外じゃない。」


少し風が吹いた。彼女の赤い髪と外套が風に靡いて、それこそ一輪の花のように見えた。


「…ほう、生きとし生けるものに意味などはないと言うのか。」


彼女は頻繁に、こんな風なことを聞いてくる。きっと寿命が長いなりの苦労があるのだろう。エルフは街中で彼女以外見たことがない。

だから、それに答えを返してやる。俺の歪な(こた)えを。


「だから、自分で決めるんだ。自分の『価値』を。本当に大事なモノを。」


歌手が歌唱力を磨くように、小説家が文才を求めるように、『自分』という物を、研いで、研いで、研いで──


「ソレを貫いていけることこそが、人生の意味だ。」


そう、俺は考える。


「…そうか、では、お前の『価値』とは何だ?」


そう言って、彼女は踏み込んだ。

ああ、当然聞かれるよな。でも生憎、こちらには持ち合わせがないんだ。申し訳ない。


「ッ…お前には、関係の無いことだ!」


だから、俺みたいな端役(モブ)じゃ役不足だって、最初に言ったのになあ。


───────────────────────────


カコン!と小気味いい乾いた木の音が響いて、俺たちは離れていた距離の中心点でぶつかった。

空気が吹き飛んで、周りの落ち葉が舞い上がる。


俺たちの剣戟に距離は関係ない。ぶつかっては離れ、ぶつかっては離れる。俺はスキルを使って全力で戦っているんだが、多分ローズは、手加減さえしているのだろうな。


「「…」」


口角が吊り上がって行くのがわかる。そしてそれは、彼女も同じのようだ。2人して気持ち悪い性癖を持っているとつくづく思う。

どうやら俺は、戦いを楽しんでいる。高揚感が体を支配して、どんどんと感覚が研ぎ澄まされていく。

中学生がタバコを覚えるように、何か悪いことをしているかのような背徳感による興奮さえ感じている。

この高揚感も背徳感も、全ては訓練で命が掛かっていないから故であることを切に願う。


鍔迫り合いになった。パワー比べという単純な出力勝負では、こちらが勝てるはずなのだが、何故か拮抗する。相変わらずよく分からない技術だ。


「早ぇ…」


彼女はそう言った。確かに出力の関係で最高速度は俺の方が速いが、初速は勝負にすらなっていない。嫌味な事だ。


「何言ってんだ。アンタの方がずっと速いクセに。」


力を込め、弾き飛ばす。修行の成果を目に見えて感じ、思わずにやける。


「そうじゃないんだが..まぁいいか。」


どうやら彼女も、余計なことを考えるのは辞めたみたいだ。

そうだよ。これは言わばセッションの続きなんだ。無粋なことは考えず、ただ己をぶつけ合うべきなんだ!


しばらくの間、2人のぶつかり合う音が、朝の澄んだ空によく響いた。

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