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第52話:「精錬」

前回のあらすじ、修行パート①。今回は②になるか。

時刻は午前7時30分前後だろうか。日も十分に昇り、街に活気がつき始める頃。


「78…79…」


ブツブツと数えながら剣を振る度、空気が低く唸る。

素振りの設定された回数は100回。

さすがに人体に限界があることをローズも理解しているようで、初心者にはちょっとキツイかな、くらいの回数にとどまってくれた。しかし..


「下を向くな。腰が入ってねぇぞ。手に力入りすぎだ。」


うるせぇ..

剣道どころか運動もロクに出来ないやつが姿勢を崩さない筈も無く、その度に指摘される。

後半になると疲れでブレブレになってしまい、2、3回毎にツッコまれ大変しんどい。

普段は適当なのに、剣に関わる時はこうも真摯な態度をとる。

ここまでギャップがデカいのに、1ミリも萌えを感じないのは何故なのだろうか。


(ほか)のこと考えんなよ、どうすれば敵を撫切りにできるか、それだけを考えろ。」


何時になく真剣な顔で、馬鹿みたいに物騒なことを言う。

剣に懸けるモチベーションが殺意の塊すぎて怖い。

しかし、いつかも見たように、彼女の剣はホンモノだ。今も暇つぶしのように彼女は剣を振っているが、動きは俺と同じであるはずなのに、全く別物のように感じられる。

否、全くの別物なのだろう。ローズの剣はいつも正確で、ブレることがない。しかしそれは、決して型に嵌りすぎているということではない。尺度が違うのだ、多分。

俺は未だ、『剣を振る』ということが1つの動作となっているが、彼女にしてみれば『剣を振る』というのは、戦いの中の動作の『パーツ』に過ぎない。

流れるような動きの中でこそ、そのパーツ一つ一つは精錬されていなくてはならないのだ。俺はそう解釈した。

故に正確無比。或いは、いつもは子供のように開かれている目がきりりと引き絞られ、美人な(かお)になっていることもあってか、1つの芸術作品のようになっている。


「ん、どうした?なんか顔についてるか?」


しかし剣に関わらないことだと、こうもあどけないのだ。自分に向けられた評価なんて、1ミリも気にしていない。

こっちにはギャップ萌えあるかもな。


「いや、そうじゃない..ただ、いい師匠を持ったなって。」


実際、彼女の気軽に接せられる距離感は心地よい。彼女じゃなかったらとうに投げ出していたかもしれない程だ。

素直にそう伝えると、ローズは少し赤面しながら、


「..褒めたって、修行が軽くなることはねぇんだからな..」


である。いじらし過ぎてニヤケてしまいそうだ。


───────────────────────────


さて、素振りが終われば今度は木剣に持ち替え、練習場の端にある倉庫でのメニューだ。

倉庫は正方形で一辺5m、いや6m程か?扉を閉めると外から仕掛けが作動できるようになるのだが、コイツにはなかなか驚かされた。

その仕掛けとは、扉が閉まると内壁を一周するようになっている2本のレールを、ピッチングマシンの再従兄弟(はとこ)みたいなやつが走り出すものだった。発射装置(ディスペンサー)と言った方が分かり易いか。

ソイツらの砲身(?)は常に倉庫の中心に向けられており、その中心には直径3m程の円が描かれている。

つまり円の中から出ずに、飛んでくるモノに対処する訓練だ。


肝心の飛んでくるモノだが、なんと2種類しかない。実に良心的だな。それぞれに対応方法を指定されている。


まず石だ。その辺に転がっている普通の石ころと何ら変わりないが、当然それなりの速度で飛んでくるのでそれなりに痛い。対処方法は剣で(はた)き落とす。

当然点を点で処理するなんてこと最初からできるはずもなく、訓練開始当初は終わる頃には全身痣だらけになったものだ。なんなら今でも全部落とせる訳ではない。辛い。


そして水だ。水鉄砲が飛んでくる。対処方法は回避。出来れば一滴も当たらない方がいいと言われたが、まあ無理だ。

石が飛んでくるよりかは遥かにマシに見えるだろう。しかしコイツの恐ろしいところは、塩が混ぜ込んであるというところだ。

投石によってできた自慢したいくらいの数の擦り傷や切り傷にバカみたいに染みる。考えた奴(ローズ)はアホである。

しかも水なので服が吸収して重くなり、時間が経つほどに動きを鈍らせてくるという2重の罠。考えた奴(ローズ)は大アホである。


この2つのどちらかがランダムにランダムな速度で旋回する発射装置から飛んでくる。間隔(インターバル)は3秒から10秒のランダム。

ランダム尽くしでココだけ気を張っていればいいというタイミングが一切なく、10分15分が永遠とも感じられる地獄を過ごすことが出来る。


今日も今日とてボロボロで倉庫から帰還した俺は、周囲5m以内の物体の動きを2つまでなら完全に把握できるようになった。

…把握できるだけで対応は完璧にはできないのだが。


「おいおい、10分程度でこんなんなってて大丈夫なのか?」


「ハハッ..大丈夫に見えるか?」


ローズに声をかけられ、思わず乾いた笑いが出てくる。もうしんどすぎて情緒がおかしい。なんだかちょっと面白くなってきた。


「お、おう、悪かったな。..えっと、とりあえず休憩な。」


わーい休憩。ルーク休憩大好き。そんな感じのテンションの俺に、彼女は引き攣った笑みで応じた。

少しずつ、完成されていく。

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