第51話:「律動」
前回のあらすじ、全力でローズに切りかかるも、軽くあしらわれ轟沈。
最近、よく夢を見るようになった。毎回同じ、しかも何度見ても、夢から醒めた時には朧げにしか思い出せなくなってしまう。そんな夢。
内容は特に大したものじゃない。というか、よく分からない。
何か漠然と大きな機械があって、ソレは作る途中みたいだ。
ソレには洒落たアナログ時計の装飾みたいに、歯車が大量に組み込まれていた。
そいつらはカチリカチリと音を出しながら回転して、機械を動かそうとする。
でもまだ歯車は足りないから、ただ虚しく回転するだけ。
しばらくその律動を見つめさせられて、そしたらゆっくりと、新しい歯車が嵌め込まれる。
徐々に完成に近づいてはいるが、まだまだ遠いな。残り五割と言ったところか。
そんなコトを2〜3回ループして少し歯車が増えると、意識がスーッと引いてきて…
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目が醒めた。今日もまた夢を見たような気がする。夢は見ない方だったのに、何故なのだろうか。
…いや、そんなことに専心している暇はない。
そう思い立ち上がった。…少しフラついた。
異世界転移者ルーク君の朝は早い。
…いや、早くされた、というのが正しいんだが..
毎朝6時に起床し、油の切れたロボットみたいな足取りで町外れの練習場へ向かう。朝は早いってモノローグ入れる程早くないだろって思うかもしれないが、夜型人間にはこれがなかなかキツい。特に毎朝というところとか。
「ぉはよう、ローズ。」
「ん、おはよう少年。あとローズじゃなくて師匠な。」
「ハイハイ、師匠師匠。」
寝ぼけ眼で何故か居るローズに挨拶をしながら、軽くストレッチ。
…毎朝居るけど、普段何やってんだろ。別に最初から付き合って貰う必要もないと思うんだが。
「しかしお前、案外真面目だよな。2日目にはバックレるかと思ってたわ。」
「まあ出来るならそうしたいんだけどな。単にそんな勇気が無いだけだと思うわ。」
「..ふーん、そんなもんか。」
つまらなさそうにローズは俺から視線を外した。
さて、なんで俺は朝から練習場なんぞに来ているのか、それはまあ簡単な話、修行をしなければならなくなったからだ。
「んじゃ、まぁ、頑張れ。」
「..ハィ..。」
少し俯きながらやる気のない返事をして、しかし意識を集中する。
「下塗り..」
しなきゃ最悪死ぬ..!
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さて肝心の修行内容はというと、練習場のグラウンド(?)をぐるぐると走り回っている。なんのことは無い、ただのランニングである。
「ハァ..ハァ..師匠ォ!..今何キロォ!?」
「5キロだな、あと半分だ頑張れ。」
10キロの。
…いや、死ぬが?
登校以外でろくに外出もしてないどころか、布団の上から動かないレベルの引きこもり予備軍にやらせることじゃねぇ!
最初の日は3キロとかだったのに、少し体力ついたと見るや否やガンガン距離を増やされこのザマである。
加えて下塗りを展開しつつ最低出力で固定しろという訳の分からん縛りもある。
これにより体力は信じられない速度で奪われ、ペースを守るどころか2キロ目にはヘロヘロである。
一足踏み込むと、当然体が揺れる。その衝撃ですら意識が揺らぐ。
しかし集中を切らしてスキルを解除すれば、即座に気絶からの地面との熱い抱擁が確定コンボなので死ぬ気で集中しながら走らないと生けない。
「あと3キロだぞ。ほら、気張って走れ!」
3キロとか、普通に走ったら20分は掛かるんですけど!?
…
しばらくして走り終え、地面に倒れ伏しスキルを解除する。
肉体面の異常…筋肉痛とか、足が攣ったりとかそういうことは無い。ただ信じられないほどに神経をすり減らすので、生きた心地がしない。ノーダメ縛りで岩男0をやってた時と似た感覚だ。
「でも俺..まだ生きてる..生きてるぞ..!」
なんだかんだ言って、実は30分くらいしか経っていない。最低出力でもアスリート並の速さで走れることにも驚きだが、1番驚きなのは俺がまだ今日は倒れていないことだ。
最初の日には4キロ目の途中でぶっ倒れてしばらく動けなかったことを考えると、本当に成長が著しい。怖いくらいだ。
でもそんなことに怯えている暇は、残念ながらない。情緒のないことである。
「ほら次、素振りだぞ。」
本当に、鬼畜の所業である。
一歩ずつ、一歩ずつ、歩む毎に──




