第50話:「轍」
前回のあらすじ、ローズに全力を出せと煽られたので、スキルを怯えながらも起動した。
目を閉じて集中、徐々に体に浸透させていくように、意識的にスキルを起動。
──大丈夫、行ける。
目を開き、剣を構える。視界の端に覗く俺の肌には、回路のように黒いラインが浮かび上がっていた。
「..っハ、ぁ..。」
呼吸が荒くなるのを抑える。こうも静まらないのは、恐怖心ゆえなのか、それとも身の丈に合わない能力のせいなのか。
「…へーぇ。」
少し興味を引かれたようにローズが反応する。値踏みするような視線に気圧される。
とはいえこの3日間、臆病風ふかして縮こまっていた訳では無い。自分を信じられなくても、事実を信じろ。
要らない不安は置いていけ、今は力を見せる時だ。
「....ふぅ..よし。」
呼吸を整え、前を見据える。
ようやく身体に入っていた無駄な力が抜けていく。自らを変容させる感覚を受け入れるには、まだまだ時間がかかるみたいだ。
こちらの準備が完了したことを察したローズが、視線で俺を誘う。
俺はその誘いに乗るように、強く踏み込んで飛び出した。
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飛び散る火花とともに、再び甲高い鋼の音が鳴り響く。
相変わらず俺には手応えが感じられなかったが、ローズの方は少し違ったらしい。
「さっきよりはマシ、か..」
言いながら、彼女は受け止めた姿勢のまま剣を払う。俺は軽く弾き飛ばされて、何とか倒れずに踏みとどまった。
おかしくないか?身をもって体験しながらも、その出力の大きさに現実味が感じられない。デカい武器担いだロリよりも信憑性がない。今までの体験全部幻覚でしたって言われた方が納得できるレベルだ。
「そうだな、とりあえずもちっと打ち込んでみてくれ。」
それほどの大出力を事も無げに振るい、あくまで彼女は平然と言葉を放つ。あまりのスケール感の違いに目眩がしそうになるが、何とか持ちこたえた。
放たれた言葉に頷き、身体に力を込め、解き放つ。
──一合、二合、三合…
俺の剣が奔り、彼女の剣が承ける。その度に火花が散り、甲高い音がして、その衝撃に砂が轍とも呼ぶべき風圧の跡を残す。
なのに彼女は微動だにしない。俺がスキルの展開に慣れて、徐々に出力を上げたのにも関わらず、だ。
俺は過度に反動を受けない程度だが全力で打ち込んでいるのに、まるで格闘技の練習のように軽く流される。
そうしてその衝突が十を過ぎた辺りだろうか、突然に間近にあった彼女の姿が掻き消え、眼前には少し朱に染まった空が映し出された。
「素質はかろうじてあるみたいだが、こりゃあ一からだな。」
頭上からローズの声が聞こえてきて、それで理解した。俺はどうやら、近づいた隙に引き倒されたらしい。背中から地面に軽く叩きつけられ、肺から空気が吐き出される。
「お前の剣は攻撃であっても、剣技じゃない。こんな小技に対応できないようじゃ、先が思いやられるぜ?」
少し呆れたような口調で彼女は言う。文句の1つでも言ってやりたいところだが…
「..って、あれ。おい、これ大丈夫なのか?」
あぁ、ダメだ。視界がどんどん暗くなっていく。
この3日間で新しく判明した数少ない俺のスキルの情報。それは『体力の消耗が激しい』だ。短い時間起動する分には問題ないが、10数秒ほど展開すると、それ以降は指数関数的に俺の体力を奪っていく。
「アンタの動きが、速すぎる、だけだ..」
一つだけ恨み言を言って、そこで俺の意識は途絶えた。
《黒い何か》の現在時点での情報
他の物体は侵食し、スキル使用者の肉体のみ強化、及び修復を行う。一部例外もあるようだが条件は不明。
炎のように揺らめくこともあれば、液体のように滴ることもある。《黒塗り》として纏う時は炎状。
スキル使用者の体力を指数関数的に奪う。




