第49話:「未知数」
前回のあらすじ、…特になし。
非常にシュールな状態から何とか脱出し2人に経緯を聞くと、
「久しぶりの達成報告だから手続き手伝ってくれ」とローズが半ば強引にブラストを連れてきたからああなった。ということらしい。
達成報告なんてカード渡すだけで終わりなのに、わざわざひこずられてきたブラストが少し哀れに思えた。
「ちなみに、なんの依頼を達成したんだ?」
「は?そりゃあクマの討伐依頼だよ。お前も見てただろ。」
「あぁそうか、それで…」
俺に実力を見せるためとか言って、ちゃっかり依頼も兼ねていたってことか。
別にそれ自体に不服がある訳では無いが、俺の為のデモンストレーションだったのだ。とか思ってたのが少し恥ずかしくなった。
そんな風に1人で複雑な心境に陥っていると、ローズが声を掛けてくる。
「そうそう、お前の実力も見ておきたいから、ちょっと着いてきてくれ。あ、2人も一緒な。」
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連れてこられたのは、街の外れにある…道場?いや闘技場?
ちょっと古ぼけた入口を抜けると、小さめの何も無いグラウンドと倉庫があるだけの利用者に媚びないスタイルの施設。
街の外壁と一体化している塀に囲まれているだけで椅子もないので、2人は立ったまま俺たちを見ている。
「お前、得物はそいつだけか?」
俺の腰に提げてある剣を指しながらローズは言った。
俺がその問いに頷くと、
「よし、じゃあそいつで1発打ち込んでみろ。」
そう言いながら、ローズは剣を抜く。…っていやいや、
「一応聞いとくけど、真剣を使う理由は?」
ケガとかしたら危ないだろ。
しかし、俺の問いは彼女には理解不能だったようで、心底不思議そうな顔をしながら説明してくれる。
「?…いつも使ってるヤツじゃなきゃ実力が測れないだろ。」
…本当にそうだろうか?いやでもベテランが言ってる以上ホントなんだろうか?…まあいいや、しーらね。
「あ、一応全力でやってくれ。」
「了解だ。」
釈然としないながらも剣を抜き、そのまま彼女に斬りかかった。
振り下ろされた剣を、彼女が自分の剣で受け止める。
カキンッ!と、鉄の甲高い音が響いた。
その瞬間、ほんの一瞬だけ、何も信じられなくなった。
それは「彼女に与えた衝撃の手応えが、全くなかった」からだった。
俺は剣を持って、ローズに近づいて、振り下ろした…はずだ。現に彼女は今、俺の剣を受け止めている。
だが、それに全く現実味が伴わない。まるで夢の中の出来事ように実感がない。だから、別の可能性を模索した。
最初、俺は実は幻覚を見ていて、本当は岩に剣を振り下ろしたのか、と思った。
だが違うと、すぐに考え直した。何故なら岩だろうがなんだろうが、多少は手応えを感じるものだからだ。要するに、空振ってもいないのに手応えがないのはおかしいのだ。
そして、それと同時に俺は理解した。
「ローズと俺には、理解出来ない程の実力の差がある」と。
大きな、とか、埋めようもない、とかでは無く、理解不能なほどの、差。
小学生の道徳の授業で、他人の心を理解したフリをするみたいに理解したフリをすることも許されない程の。
推し量る術すら出来ない未知数。
「…ふむ。」
呆然としていると、ローズが少し俯き加減になりながら声を漏らす。思案を巡らせているのだろうか。少し表情が暗い。
「なあ、お前らどう思う?」
そして、ベガ立ちしていた2人に声を掛ける。
あるいは一縷の望みをかけたその問いの答えは、
「ダメだな。」
「…ノーコメントで。」
あまりにも、無慈悲。
「だよなぁ…」
そう言って、明日には出荷される豚を見るような目で俺を見遣る。
…
「ああ、俺の話か。」
「お前の話以外に何があんだよ。」
そういえばそういう話だった。なんだっけ、俺の実力?そんなもんミジンコ以下に決まってるだろ今更何言ってんだよ。
そんな風に考えていたが、しかしローズは違ったようだ。
「なぁ、なんか隠してるだろ。」
ドキリとする。隠していた訳では無いが、さっきのが『今の』俺の全力かと言われればそれは違うことになる。
観念して話そうとすると、
「お前、俺はまだ本気を出してない、って顔してるぜ?」
「いや、そんな顔聞いたこともねえよ。」
いちいちツッコミをさせないで欲しいものだ。
「俺には──」
「御託はいいからよ、とにかく全力で、もう一度だ。」
俺の話を遮ってローズが言う。一瞬やるかどうか逡巡するが…
ここにはワイスも居るし、多分暴走しても大丈夫か。失敗しても俺が死ぬだけだ。
身体の内側に意識を集中する──
そういえばここに入った時、ローズと一緒にブラストも懐かしそうにしていたな。
2人にとって、ここは思い出の場所…なんだろうか。




