第47話:「笑い話」
前回のあらすじ、ローズの見せてくれた剣技は見事なもので、たった一撃で敵を葬り去った。
上半身を切り落とされたクマの下半身が、ドサリと音を立てて崩れ落ちる。
その切断面はあまりにも綺麗で、まるで斬られたという事実にそれ自体が気づいていないかのようだ。
「おーい!終わったぜ。こっち来いよ!」
「あ、ああ!」
一瞬遅れて返事をして、窪地に降りていく。
見惚れていた。一生ソレを見ていたいと思うほどに。
実際に彼女らが対峙していた時間は、10秒に満たない僅かな時間であった。
しかし、その僅かな時間で彼女が見せた剣と、その圧倒的な技術に、俺は魅せられていた。
「どうよ!」
先程までの底の見えない強者感は何処へやったのか、したり顔で胸を張るローズは、とても自分より遥かに年上の人物だとは思えない。
「正直、見惚れていた。いつ助けに入るべきか考えてたんだが、気づいたら終わってたよ。」
だか、その技術は本物だ。寧ろ俺なんかがこんな人なんかに…という罪悪感すら感じてしまう。
俺の言葉にローズはへへッ、と照れくさそうに笑った。
「すげぇだろ?そんなオレが師匠になってやるってんだから、お前も鼻が高いよな。」
「それ、少なくとも自分で言うことじゃないと思うんだわ。」
適当にツッコミを入れつつ、改めてローズの姿を見る。外套の中はへそ出しの半袖で、すべすべのお腹が見えている。元々抱えていた違和感が肥大化した。
「ちょ、おい、何だよ。そんなまじまじと見て。」
…他人のセンスにどうこう言うつもりもないが、なんというか、ファッションがちぐはぐだ。外套で肌を隠しているにも関わらず、内側では大胆に露出している。しかも腰から下はマントが付いているという、外套の意味を完全に消失させる装飾の派手さ。
さらに手にはオープンフィンガーグローブ。右目には眼帯。これはもう、アレしかないだろう。
「厨二病、か。」
「え、なんだって?」
多くの思春期男児が罹患すると言われ、その病に罹った者は多大なる後遺症を負うと言う原因不明の病。
かつては俺も厨二病に侵され、その影響は未だに根強く俺の精神に負担を与えている。
つまり彼女は、今尚厨二病の苦しみに晒され続けている!
「その右目、一体何が視えている?」
急にシリアスなトーンで声を出す。俺の予想が当たっていれば…
「…世界の果て、かな。」
乗ってきた!目ェキラキラさせて乗ってきた!
そうか…!そうと分かれば…
「ローズ。君のその瞳は、隠しておくにはあまりに惜しい。だから、」
「へ?」
彼女に近づき、眼帯に手をかけ、
「こんな眼帯は、必要ないだろう。」
ひっぺがす。晒し出されたその眼窩には、金色に輝く瞳があった。これでマジで隻眼だったら笑い話じゃ済まなかったけど、結果オーライだ。
この調子で、彼女の纏う厨二グッズをどんどん剥がしていこう!厨二の期間なんて、短ければ短いほどいいからね!
「は、ははは!ダメだ!面白すぎる!」
しかし、ローズの反応は予想外な物だった。少しキョトンとした後、盛大に笑いだした。てっきり動揺するか取り返そうとするかだと思っていたが…
「いや、すまんすまん!そうか!そういう返しもあるのか!ハハハハハハ!」
まさに抱腹絶倒、と言った感じだ。
「なんだ?急にどうした。」
事態を全く把握出来ない俺の問いに、笑い混じりにローズは答える。
「ああ、心配してもらって申し訳無いんだが、オレはそういうんじゃないから安心していいぜ。」
あと眼帯返してくれ。とローズは続ける。
ん??つまり一体どういうことだってばよ?
「お前、優しいんだな。」
地母神みたいな慈愛に満ちた表情でそんなこと言われても困る。
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さて、そんな感じで寸劇を繰り広げていた俺たちだったのだが、どうやらこのローズは1つミスを犯したらしい。
「やべぇぞルーク。逃げる準備はいいか?」
「アンタ、コレ何とか出来ないのか!?」
俺たちは現在、魔物化したオオカミに囲まれていた。どうやら巣が近かったらしく、さっき倒したクマの咆哮と、血の匂いに釣られて集まってきたようだ。
「出来ねぇ!お前が居るから!」
「そうかよ畜生!」
自分の無力を噛み締めるが、そもそも悪いのはコイツでは?
「行くぞオラァ!」
オオカミ共の包囲を、ローズが強引に切り開いて抜けていくのを、俺は全力で追いかける。
この疾走感、エンディングで走るアニメは名作ってやつか!
ちなみに不自然な程に整ったバトルフィールドだった窪地は、ローズが用意したものらしい。
どうやって作ったかはさておき、オチが酷すぎるだろ。




