第38話:「夢」
前回のあらすじ、ロノミーに能力をコピーされたと思ったら暴走して自爆した。
ロノミーの体の中にある黒い何かは、何故か俺も操作することができるようだ。いつかと同じように、ロノミーの体内から黒い何かを引きずり出す。中途半端に体内を修復されたロノミーの死体は、空気の抜けた風船のように萎みながらも、所々中身が詰まっている不気味なものとなってしまった。
「コイツも、俺の不注意さえなければ生きていたんだ。」
俺が望んでいたことは、コイツを生かして捕縛すること。コイツだって、生きていれば変わることは出来るかもしれなかった。その機会を、俺は奪ったのだ。望んだ結果を得るためには、半端なことをしてはいけなかったのだ。
「大丈夫ですか?」
イミテに服の裾を引っ張られた。気づけば、ロノミーの死体をじっと見つめていたようだ。
敵が1人死んだだけだ。何を気に病む必要がある?意識を切り替えろ。お前は守るべきものを守ったんだ。
「ああ、大丈夫…」
振り返って、イミテの頭を撫でようとした。でも、出来なかった。戦闘で想像以上に体力を使っていたみたいだ。振り返ると同時に視界がぐらついた。足元が覚束なくなる。て言うか現在進行形で倒れている。世界がスローになって、意識が闇に沈んでいくなかで、それでもしっかりと、抱きとめられた感触があった。
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コツン、コツン、と鉄骨を踏みしめる。1歩1歩、ゆっくりと。あぁ、見たことがある光景だ。しかし、どこで見たんだっけ…
ビルとビルの間に橋のように渡された鉄骨を、風に煽られながらゆっくりと這うように進んでいく。
鉄骨を渡っている者は俺だけではなく、もう1人居た。目の前に、ロノミーの背中があった。
よく思い出せないが、この鉄骨を1番最初に渡らないといけない気がした。確かそういうルールだったはずだ。
だから、進むスピードを早めた。ジリジリとロノミーの背中に近づき、遂には手を伸ばせば触れられるほどになった。
コイツを突き落とすべきだ。前に見た時は、そういう方法で勝つ必要があったはずだ。
だから、手を突き出した。震える手は、しかし躊躇はなく突き出され、呆気なくロノミーを鉄骨から突き落とした。
ロノミーが居なくなったことで、向かい側のビル、ゴールに待つものが見えた。
そこに居たのは、イミテ。
この世界で俺が助けた、そして、俺が助けられている女の子。
早く行かないと、どこかへ行ってしまうような気がした。
だから、無謀にも走り出した。軋む鉄骨の上で、バタバタともがく様に。
あと少し。あと少しで、イミテの元までたどり着ける。
あと少し。
あと少し。
あと少し。
あと少し。
しかし、彼女の元まで進むことは無かった。無様にも足を滑らせた。馬鹿だ。何のためにここまで来たのか。何のためにロノミーを倒したのか。
そんなことは一切報われることなく、ただ無情に落下して行った。
必死に上に向かって手を伸ばすが、誰も掴むことは無い。
そのまま深い谷底に落ちて…落ちて…落ちて…落ちて───
冷たい手が、俺の手を握った。
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全力で掴み、引き寄せる。
「うわぁっ!?」
ぽすん、と俺の上に何かが落ちてきて、それで、目を覚ました。
「どうしたんですか?ルークさん。何か悪い夢でも見ました?」
あぁ、夢、だったのか…思わずため息をつく。イミテが心配そうな顔で、俺の目を見つめていた。
「まぁ…そんな感じ。」
言いながらイミテを抱きしめる。何となく、離したくなかった。
「なんか、今日は随分積極的ですね。」
少し嬉しそうにイミテは言う。俺はただ、どうしようもない不安感に駆られて行動しているだけだ。あらぬ誤解を招きかねない発言はやめたまえ。
「バカか。言い方を考えろ。」
抱きしめる力を強めながら、そう言った。
直後に、ワイスが俺の様子を見に来た。部屋のドアを開き、俺の方を一瞥すると、ゴミでも見るかのような目をして扉をそっと閉めた。
…
誤解を解くために頑張ってくれたイミテには頭が上がらなかった。




