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第37話:「クサい台詞」

前回のあらすじ、ロノミーを捕獲するために戦っていたが、勢い余って殺してしまった。

今になって実感した。眼前で腹に穴を開けて倒れているこの男は、俺が殺したのだ。

認識した途端に、なんだか自分はとても罪深いようなことをしてしまったような気がした。

敵を倒しただけだ。何も悪いことはしていない。そう自分に言い聞かせるが、後悔が津波のように押し寄せてくる。


「気にするな気にするな!俺は悪くねぇ!」


頭をブンブン振りながら口に出して何とか震えを抑え、とりあえずロノミーの死体を持って上がろうとソレに触れると、


「うっ…なんだよこれ…?」


力が抜けるような感覚がして、少しよろめく。しかもよく見ると、ロノミーの腹部の穴が、少しずつ黒い何かで修復されていく。


「おいおい…ウッソだろお前…」


ピクリ、と指先が動いた。そしてゆっくりと手のひらで地面を触り出した。往生際の悪いやつだ。完全に息を吹き返している。

間違いない。コイツは、俺が直したイミテを食うことで、俺のスキルを間接的にコピーしたんだ。

ロノミーがゆっくりと立ち上がる。


「いやぁ、驚いたねぇ。なんでか君のスキルをコピーしてたみたいだ。しかし死んだと思ったんだけど、ここまで君のスキルの回復力が高いとはねぇ…」


クソッ!どうすればいい?どうすればコイツを止められる?俺のスキルがそのまま使えるなら、コイツにはどんな拘束も無意味だ。


「おっと、そんな怖い顔しないで欲しいねぇ。お互いほぼ不死身みたいなものなんだ。無意味な争いはしたくない。」


勝ち誇ったような顔でロノミーは続ける。


「ねぇ、もう一度聞くけど、僕を見逃しちゃくれないかい?これ以上の争いは無意味だ。僕は僕なりに人生を謳歌しているだけなんだ。これから君たちに関わることもない。それに─」


確かに、コイツをそのまま放置していても、無関係の一般人やら何やらが殺されるだけだ。コイツとここで戦い続ける必要性なんか、イミテの母の仇討ちぐらい。それすらイミテがここで死ぬ可能性を考えれば些事だ。でも、


「それに、まさか君たちは正義の味方ってわけじゃないよねぇ?」


その台詞で、我に返った。

───────────────────────────

そうだ。確かに俺は正義の味方なんかじゃない。自分とは無関係な人間がいくら死のうがどうでもいい。地球の裏で無関係の1億人が殺人鬼に殺されても特にリアクションを起こさないだろう。

でも、それはその事件が『俺だけの正義』に抵触しないからだ。

俺は異常者だ。俺の中では、俺が白と思ったことは白、黒と思ったことは黒なんだ。

合理だけには徹しない。やりたくないことは有益でも拒否して、やりたいことは無益でも貪欲に食らいつく。やりたいことは、正義でも悪事でも合理的でも非合理的でも関係なく執行する。

それが、俺が元の世界で確立した己の在り方だった。これこそが俺だと言える生き方だった。何故こんな簡単なことを忘れていたんだろう?

俺は、『俺だけの正義』の味方だ。

───────────────────────────

コイツはイミテの母親の仇である以前に、イミテを殺そうとしたやつだ。なら、俺がやることは1つなんだ。


「半分あたりだクソ野郎。俺はお前を、ここから決して逃がさない。」


戦闘態勢。さっきはハイになってたから無茶苦茶な戦いも出来たが、正直今は痛みに耐えられる気がしない。だが、気絶させるくらいなら出来るはずだ。


「全くしょうがないねぇ。じゃあ、君自身のスキルの練習台になってもらうとするよ。」


俺のスキルか。コイツは黒い何かを使えるようになったのか?だが、コイツが見た黒い何かの使い方は修復と下塗り(アセンション)だけだ。大丈夫。問題な─


「…ガフッ」


「ッ!?」


突然血を吐いて倒れるロノミー。いや、血じゃないな。吐き出されているものは黒い何かだ。

一体どういうことだ。訳が分からない。黒い何かは口から吐き出されてすぐに消滅している。


「お…が…しぃ゛。な…んで…?」


ロノミーが呻くように呟く。仮に黒い何かがロノミーの体内を破壊しているなら、その性質を考えればもうとっくに喋れなく…いや、死んでいるはずだ。


()んで…る…のに…(い゛)…ぎでる…?」


倒れ伏したロノミーを裏返して仰向けにしてみるが、見た目に特に異常はない。しかし、ロノミーの言葉と、触れた時に伝わった感覚が示す答えは、


「破壊と修復を繰り返している…」


体内の全部が黒い何かで修復され、直後に全てを修復した黒い何かで破壊されている。もはやゾンビという表現すら生ぬるい状態だ。その姿は、未来の自分自身を暗示しているようだった。


「……て…ぐれ…」


「あ?」


「ご…ろじで…ぐれ…!」


傍目から見ればなんでもないのに呻いているように見えるソレは、その実死亡と蘇生を繰り返しているような状態だ。


「…わかった…」


本当ならこのままにして、生きながらにして地獄を味わってもらうところだ。だがコイツを見ていると、自分もいつかこうなるような気がしてならない。その不快なビジョンを消し去るために、ロノミーの胸に手を添える。…そうだな。こういう時は、クサい台詞の1つでも贈っておくべきか…


「如何に《悪食》なお前でも、俺の異常性(なかみ)は食えなかったみたいだな?」

ちょっとクサすぎたな。

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