第36話:「自責」
「そのまま少し休んでいてくれ、あとは俺が片付ける。」
「…はい…」
震えながら立ち上がろうとするイミテを制止して、ロノミーに向き直る。甘かった。自責の念で潰れそうだ。
鎖で拘束していようが、意識を失っていない以上、警戒を解くべきではなかった。そもそも相手が殺す気で来ているなら、こちらも死ぬ気で対応しなければいけなかった。イミテが危なくなったのは俺のせいだ、俺がちゃんと指示を出せなかったからだ。俺が甘ったれていたからだ。俺が全力で気絶させようとしなかったからだ。降参なんか促したからだ。俺が…
「今なら逃がしてあげるよ。最高に気分がいいからねぇ!よく考えたら、君たちが多少騒いだところでなんの信憑性も無いしねぇ。」
上機嫌なロノミーが言う。イラつくな…阿呆なんだろうか。阿呆なんだろうな。垂れ流しになっている黒い何かを抑え込む。
「ねぇ、ひょっとして勝てる気でいるのかい?今の僕は絶好調だから、やめといた方がいいと思うけどねぇ。」
答えない。息を整え、踏み込む。
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2歩目、加減はなしだ。ヤツはイミテを2度も殺そうとした。思い切り足に力を込め、弾丸のように身体を射出する。一瞬でヤツの眼前に到達した俺は、そのまま顔面に殴りかかる。
「…っ!?」
しかし、調子が良いのは本当なのか、咄嗟に腕でガードされてしまった。低く鈍い音が拳から伝わって、大きくヤツが後退する。
「嘘だ…ありえない…僕の腕が…腕がぁ!」
着地すると同時に、足から激痛が走る。あまりの出力の大きさに、体の方が耐えられてないみたいだ。これは健が切れてんのかな。なんでもいいや、すぐ治せるし。
敵の方は方腕がなんかズレている。皮膚の方は固くても、衝撃で骨が折れちゃったのかな。当然俺の腕の方はぐちゃぐちゃだが、こっちはすぐ治せる。ダメージレースで勝っているなら、あとは殴り続けるだけでいいな。
「よくも僕の腕をォ!」
ヤツの方から向かってくる。無駄に足を痛めずに済むから助かるな。常人なら見切れないであろうスピードだが、全力全開で強化している動体視力ならば、まあ追える程度の速さだ。10時間ぶっ続けでゲームした時の比じゃないくらい目が痛いが、どうでもいい。
ヤツの拳にこちらも拳を合わせる。正面からぶつかり合い、強度の低いこちらの拳が先に、ぐちゃぐちゃにひしゃげていく。ここまでは織り込み済みだ。
力に任せて強引に身体を捻り、そのまま腹に思い切り蹴りを入れる。突き出した足は、そのままヤツの胴体を穴を開けるように消し飛ばした。辺りに血と肉片が散らばる。
「…あ。」
「ご、ぶぁ…」
ヤツは動きを止め、勢いよく血を吐いた。足を引き抜くと、そのまま倒れ伏す。
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そういえば、腹には装甲は無いんだったな。
「おい、生きてるか?」
頭を突っついてみるが、反応は無い。死んでしまうとは情けないな。
うーん。どうやってワイスに説明しようか。そんなことを考えていると、濃厚な血の匂いが鼻についた。眼前に倒れ伏すロノミーの物だ。
「あぁ、そっか。」
人を、殺したんだ。
厭な汗が流れる。




