第33話:「昇華」
────霧散しそうになる意識をかき集める。鉄がぶつかり合うような音が、耳鳴りの奥に聞こえる。
「…ですか!」
溶けてしまったのかと思うほどに熱い肺に、無理やり空気を流し込む。一呼吸する毎に、喉が焼けるような痛みに苛まれる。丁度いい、目を覚ますのに最適だ。
「大丈夫ですか!返事をしてください!ルークさん!」
目を開く。ぼやける視界には、俺を守るように立ち塞がる少女が映る。そうだ、こんなところで寝ている暇はない。だらんと伸びていた腕を地面につく。そのまま、ゆっくりと関節に力を込めて、立ち上がる。
「…おや、まだ動けるとはねぇ。」
骨がミシミシと軋むような感覚がするが、構わない。息を吸い込む。目の前で戦っている妹分を早く安心させてやろうと、声を出そうとする。
「だ、大丈─ガハッ」
しかし、深刻に内臓にダメージを受けていたのか、血を吐いてしまう。
「ッ!?動かないでください!ここはわたしが何とかしますから!」
俺が不甲斐ないせいで、イミテに心配をかけてしまった。体内に意識を集中し、スキルを発動させ、修復していく。マジで重症だな、下手したら左腕の時より酷い。
「余所見してる場合じゃないよ?よっぽどお友達が大事なんだねぇ!」
「しまっ─」
目の前のイミテが横に蹴り飛ばされる。辛うじて防御はできたみたいだが、俺のせいで怪我をさせてしまった。後で謝らないと。
「すごいねぇ、それは君のユニークスキルかい?みるみる傷が回復しているじゃないか。」
ロノミーがゆっくりと俺に近づいてくる。どうやって反撃しようか、スキルの攻撃が当たれば問答無用で倒せるが、それだと殺してしまう…
「やめてください!ルークさんに近づかないで!」
「冥土の土産に教えてあげるよ。僕にはユニークスキルがあってねぇ…」
考えろ、黒塗りの能力上昇の効果だけを発揮出来ればいい。黒い何かが相手に触れさえしなければいいんだ…
「《悪食》と言うんだけど、生きたまま食べた生物のユニークスキルや種族的な能力をコピーできるんだよねぇ。」
黒い何かは、俺の思った通りに体内を動かせる。やってやれない事は無いはずだ。
「特にユニークスキル持ちの人間は美味しくてねぇ。珍しいこともあるし、ちゃんと全部食べておかないと。」
「まさか、食べるために人を殺していたとでも言うつもりですか!?」
顎を掴まれ、持ち上げられる。ロノミーの目が見開かれ、狂気に満ちたその眼が俺を見つめる。
「もうほとんど無傷だ。君は一体、どんな味がするんだろうねぇ…」
「その手を離せぇ!」
体勢を建て直したイミテが飛びかかってくるが、遅すぎる。ロノミーの顎が、俺の首筋を噛みちぎる
「キッショ。」
訳がない。ガラ空きの腹にボディブローを叩き込む。
「グゥッ!?」
ロノミーは大きく後ろに弾き飛ばされた。思った通りだ。体内を修復する時のように体の内側に黒い何かを展開すれば、筋肉やらを強化することが出来る。そうだな、黒塗りが外側からの強化付与ならば、
「下塗り」
そう呼ぶことにしよう。俺の能力を内側から昇華させる、黒い何かの新しい使い途だ。
「隠してたみたいで悪いけど、俺のスキルができることは1つじゃない。」
そう言うとロノミーは、愉快そうにその貌を歪めて、
「いいねぇ!食べるのがどんどん楽しみになる!」
とか宣いやがる。
「とことん気色悪ぃなアンタ。」
やっと俺もまともに戦闘に参加できる。さぁ、最終ラウンドだ。
下塗り
黒塗りを内側に展開する要領で、筋肉や、骨の強度、動体視力までをも強化する。黒塗りは四肢のうち1つを覆うほどしか黒い何かを展開できなかったが、こちらは体内全てを黒い何かで満たし、強化している。




