第31話:「暗闇」
前回のあらすじ、隠し通路を発見した。
無言で階段を降りていく。ヒリついた空気が肌を撫でる。明かりは壁に付いている燭台だけで、足元がおぼつかない。
俺たち以外に人は居ない筈なのに、階段の先の暗闇は不気味な緊張感を放っていた。
次第に暗闇からは、鉄の錆びたような匂いが漂い始め、温度も暗室のヒヤリとした物から、生物の肌のような生ぬるいそれへと変わっていく。
階段を降りきると、そこは地下室になっていた。しかし、やはり照明は燭台だけで、部屋の中央に置いてあるそれの周りだけが、ぼんやりと照らし出されていた。
「イミテ、武器を構えておいてくれ。俺が燭台を持った方がいいだろう。」
背後で頷く気配を感じ、部屋の中央へと歩みを進めていく。入口から部屋の奥に進むにつれて、どんどん臭いが強くなる。
燭台を手にして、部屋内の探索を始める。壁と床には赤黒い染みがこびりついていて、錆びた鉄のような匂いはそこからしているようだった。まぁ、何となくわかっていたが、
「間違いない、血だ。」
しかも、とてつもない量。飛び散った血飛沫は、室内の殆どの壁と床を塗りつぶしていた。そして部屋の奥の方には、
「手術台…か?いや、」
拷問用のようにも見える、石のベッドがあった。四隅には鎖で繋がれた枷が付いており、ここに寝かせた人間を拘束するようにできている。血飛沫の中心も、どうやらここのようだ。犯人はここで殺人、死体の解体をしていたのだろう。
「でも、なんのために…?」
そこまで思考したところで、小声でイミテに声をかけられる。
「ルークさん、誰か来ます!」
───────────────────────────
「探偵ごっこはシナリオ通りやってくれないと困るんだよねぇ。」
現れたのは、ロノミー。昨日の善人ぶった笑顔のまま、けれど言葉の端に僅かに苛立ちを滲ませながらそう言った。
「シナリオって、どういう意味ですか。」
イミテが追求する。まぁコイツは副長だし、単純なシナリオだろう。
「簡単なことさ。ヴァランが君たちに捕まれば、僕がギルド長になれるだろう?そうすれば、もっと自由に動けると思ってね。君たちを利用させてもらったんだ。」
まぁ、その結果がコレなんだけど。と付け足すロノミー。
「あの書類を見つける前にこっちを見つけるなんて、運がないねぇ。」
あの書類?なんのことだ。部屋の書類には全部目を通したはずだが。そもそも書類の量が少なくて、見落とすも何も無いような状態だったし…
「まぁ、どうでもいいや。今から君たちは死ぬんだからねぇ。」
そう言うと、ロノミーは上着を脱ぎ捨ててこちらに近づいてきた。
───────────────────────────
向こうは素手、こちらには武器がある。しかも2対1の状況。普通に考えれば負けることは無い筈だが、ロノミーは妙に余裕のある態度だ。何か策があるに違いない、油断せず行こう。
「イミテ、アイツを拘束してくれ。逮捕して罪を償わせるためにも、殺すのはナシだ。」
殺さないように一応釘をさしておく。さっきからイミテの放つ殺気が半端じゃない。
「わかってますよ…」
そう言ってロノミーに目にも止まらぬ速さで突っ込んでいく。イミテの身体能力なら、並の人間なら太刀打ち出来ない筈だ。
「速いッ…!」
ロノミーはそう言いながらも迎撃体制を取る。とんでもない動体視力だ。首狙いで飛んでくる鎖を躱し、その隙にイミテに接近して顔面に正拳突きを放った。
「…ッ!?」
イミテはかろうじて身を捻って躱し、その伸びた腕に鎖を巻き付ける。
「化け物ですか、貴方。」
「君にだけは言われたくないねぇ。」
俺は完全にヤムチャ状態だ。しかし、イミテはしっかりとロノミーの腕を拘束している。この状態ならば、いくら動体視力が鋭くても勝てないだろう。
「降参してください。貴方に勝ち目はありません。大人しくしてくれれば、半殺しで済ませてあげます。」
ちょっと物騒な感じでロノミーに降参を促すイミテ。しかしロノミーはクスリと笑い、
「勝ち目が無いのは、君たちの方なんだよねぇ!」
そう言うと、鎖ごと腕を振り払う。力任せに鎖を振りほどかれ、イミテは慌てて距離をとる。
「第2ラウンドの、始まりだねぇ。」
しかし、ロノミーのあの口ぶり。単純にギルド長になりたいだけではないようだな…




