第17話:「正気」
前回のあらすじ、おつかい帰りに人攫いを見つけて倒したと思ったら人殺しだった。
袋を開けて最初に見えたのは、赤い目だった。瞼が限界以上にまで見開かれ、この世の痛みや苦しみ、恐怖を全て煮つめたような視線で俺を貫く瞳。驚いて視線を逸らして目に入ったのは、血の通っていないんじゃないかと思うほど青白い肌。実際、血は通っていないのだろう。運びやすいようにだろうか、左腕は肩口から切り落とされ、右腕はあらぬ方向にへし折れていたし、両脚は膝から先がもがれて左腕と一緒に胴体の上に載せられていた。
「は?」
思わず、声が漏れる。だって、俺は人攫いにあって奴隷にされそうな不幸な人を助けるために来たはずでさらわれた人がこんなことになっている筈がなくておれはしっかりてきをたおしてまちがいなんかなかったはずで…
「しっかりしろ、ルーク。これはお前のせいじゃない。」
肩を叩かれて、正気に戻った。振り向けば、顔をしかめたブラストが少女を見つめていた。気づかず崩れ落ちていた膝に力を入れ、ブラストに掴みかかる。
「ブラスト、これは一体どういうことだ。起きていたのは、人攫いじゃなかったのか!?」
奴隷にするならば、怪我なんてさせない方がいいに決まっている。なのに何故、彼女はあそこまでボロボロなのか。
「済まない、落ち着いてくれルーク。俺は住民が失踪している、としか聞いていなかったんだ。」
「クソっ!最悪だ…」
何とかして助けないと…とりあえず脚と腕は元に戻す必要があるな。
「服装から察するに、貧民街の住民だろう。だから正確な情報や被害届が出なかったのか。」
拳を握りしめ下唇を噛むブラスト。確かに彼女が着ているのは、服と呼べるか怪しいレベルのボロボロの布だ。目を覚ましたら、一緒に服を買いに行ってやらないと。
「ルーク、手伝ってくれるか。名前も分からないが、彼女をこんなところに置いておく訳にはいかない。きちんと弔ってやらないと。」
こんなところに置いておけない、というのは同意だが、弔うってどういうことだ?何か致命的な認識のズレを感じる。
「お前こそ手伝ってくれ、腕や脚を元に戻すぞ。」
言いながら、へし折れた腕を正常な角度に戻す。これで合っているだろうか、詳細な知識がない。ちゃんと保険の授業を受けておけばよかったと後悔しながら、身体のパーツを元あったであろう場所に戻していく。
「ルーク、何をしている?」
この男こそ何をやっているんだ。急がないと、本当に死んでしまうかもしれないんだぞ。
「直すんだよ!助かるかもしれないだろ!」
パーツを戻し終わり、彼女の胸の中心に手を触れる。思い出すのは、昨日自分の体を修復した時の感覚。慎重に、身体に足りない部分を黒い何かで埋め尽くす。
「よせ、ルーク。その子はもう死んでいる。」
死んでいる?何を言ってるんだコイツは。こんなにも、彼女の瞳は俺を見つめ…て?
見つめていない。彼女の必死の形相は、虚空を見つめるばかりだ。彼女は、どう見たって助からない、はずだ。なのに、
「悪い、ブラスト。俺、どうかしてた。」
彼女の身体は、異常な青白さを持っている肌は、血の通っていない心臓は、それでも、
「俺は一体…何を…」
確かに、血の通っていないまま、鼓動を打った。
ルークの異世界定義メモ
魔法の詠唱は、体内の魔力を制御するために唱える。そのため、魔力の制御が完璧な奴は、魔法の名前を唱えるだけで魔法が発動できる。




