第15話:「致命傷」
前回のあらすじ、ワイス先生に魔力や魔法のことを教えて貰ったが、肝心の魔動機が使えない理由については、未だ不明だった。
「じゃあ、教えたとおりにやってみて?」
「了解。」
今、俺とワイスは森に来ていた。ワイスによると、魔動機は魔力を使用者から自動的に吸い出すようになっているらしい。だから、自分から魔力を意図的に流し込めば動かせるようになるのではないか、という推測を建てたのだ。
つまり、魔法が使えれば魔動機も使えるという理屈で、魔法を練習することになった。ちなみに触媒はワイスに貸してもらっている。
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視界の中心に、今回のターゲットとなる大きな岩を捉える。右手の平をかざし、左手を右前腕に添え、足を肩幅に開く。自分を発射台に見立てるようなイメージ。
「炎よ、我が意に従い、貫き、焦がせ。」
身体の中を、今まで感じたことのないものが蠢くのがわかる。そいつは俺の中を存分に泳ぎ回り、右手の平に集まって今にも爆発寸前なエネルギーとなる。
「《炎の矢》」
エネルギーに形を与え、打ち出すように解き放つ。魔力が手の平の前に赤い魔法陣を形作り、その中から身を焦がすほどの熱を持った矢が飛び出す。
「あれ?」
…ことは無かった。魔法陣から魔法が出る前に黒く染まり、消えてしまったからだった。
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「おかしいなぁ、このやり方であってるはずなんだけど…」
首を捻るワイス、どうやら俺の魔法は不発に終わったようだ。こんな小っ恥ずかしい詠唱をしたからには、必ず何か掴みたい。
「確かに俺も手応えを感じた。なんで魔法が発動しなかったか分かるか?」
なんだか、フォームは完璧なのに球速がまるでないピッチャーを見た時のような気分だ。
「うーん。詠唱も完璧、魔力も十分、魔法陣も出てたし、特に問題は無かったなぁ。魔法陣が黒くなる、なんて現象は初めて見たけど、ルークのスキルに邪魔されてるのかなあ。いや、でも•••」
顎に手を当てて考え込むワイス。悩んでる姿も可愛いなぁ、なんて気持ち悪い考えを浮かべて見ていると、彼女の背後の茂みに隠れているそいつと目が合った。
「何?私の顔に何かついてる?」
なんてベタなセリフを言うワイスに向かって走り出す。
「後ろだ!」
言いながら、彼女を思い切り横に押しのけ、突進してくるそいつの攻撃範囲からズラす。それはつまり、俺がそいつの攻撃を食らうということになるわけで、
「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!」
そいつの大きな牙が腹に食い込む。死にそうな程痛いが、死んでいないので問題ない。死んでさえいなければ、俺には回復手段があるはずだ。
「クソっ、くたばりやがれ!」
そいつの突進を腹で受け止めながら、全霊の力を振り絞って剣を背中に突き刺す。
「フゴォッ」
そいつが呻き声をあげて動きを止めた隙に、なんとか牙を引き抜き、離脱する。よく見ればなんてことは無い、ちょっと牙の大きい猪だ。
「下がってて、ルーク。すぐやっつけるから。」
ワイスが猪の前に立ち塞がる。助かった。戦闘は俺より遥かに強い彼女に任せて、傷口を確認する。腹には大穴が空いており、止めどなく血が溢れている。かなり深く抉れていて、内蔵にもダメージが入っていそうだ。
「なんだ、ただの致命傷か。」
なんて強がりを吐きながら、必死に痛みを抑え、目を瞑り、意識を集中する。転移した初日を思い出せ、左腕を治せたのなら、中身でもいけるはずだ。
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黒い何かを操り、喪った部分を満たし、穴を埋めていく。完全に傷を満たした後、目を開くと傷は塞がっていた。
「よかった、成功したか。」
少し体を動かしてみるが、特に痛みもない、問題無くスキルが発動したようだ。
「ルーク!ケガは大丈夫なの!?ちょっと傷口見せて!」
猪を氷像にしたワイスが、こっちに向かってくる。服を捲って腹を見ると、傷が残っていないことに気づいて、目を丸くした。
「スキルで治したんだよ、この辺は危ないみたいだし、とりあえず帰らないか?」
腹を凝視するワイスを退けて立ち上がる。
「スキル?うーん…納得いかないけど…帰る方が先かな。」
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その後、冷静になったワイスに、1日外出禁止、絶対安静を言い渡された。
ルークの異世界定義メモ
魔物とは、普通の野生動物が、魔力のような謎のエネルギーを受けて凶暴化しているものを指す。また、ゴブリンやドラゴンなど、いかにもファンタジー的な生物も、魔物として存在するようだ。




